岩垂徳行 × ツーファイブスタジオ 「辛口!? スタジオレビュー」


CRIグループのツーファイブスタジオにて、初の試みとなる楽曲レコーディングが行われました。
レコーディング楽曲はニンドリ22年5月号の付録として収録されている『「香川愛生とふたりで将棋」メインテーマ スペシャルバージョン』。ヴァイオリン2本、ヴィオラ1本、チェロ1本のカルテット編成で挑んだ本レコーディングですが、作曲者である岩垂徳行氏にツーファイブスタジオでの収録について率直な感想をいただきました。

▼対談者
インタビュイー:
岩垂徳行 氏https://iwadarenoriyuki.com/)
長野県出身。主な作品は、
LUNAR・GRANDIA・Langrisser,・新光神話・パルテナの鏡・
逆転裁判,など。「LUNAR」や「GRANDIA」では
最優秀音楽賞を受賞するなど、その楽曲は国内外でも評価が高く、
幅広い年齢層の共感と賞賛を得ている。

1991年 メガドライブ部門最優秀音楽賞。
1997年 サターン部門最優秀音楽賞。
2000年 ドリームキャスト部門最優秀音楽賞を受賞。
2010年 RPGAMER AWARDS 2010 Best Music部門第2位。
2012年 The25Best iOS VersionsOfClassicGames」第1位。

Arc-hive Philharmonic Winds 正指揮者/顧問
Game Symphony Japan 顧問

その他、東京ディズニーリゾートなどのショー・イベント音楽、
舞台音楽、テレビ・ラジオの音楽など多方面に活動を展開している。

オオタマサヨシ
ツーファイブスタジオのサウンドエンジニア。
渋谷移転時のツーファイブスタジオ建設における施工会社との調整、機材設定などに関わる。

インタビュアー:
ウシヤマトモカズ:ツーファイブ 営業&ディレクター

 

声の収録に特化したスタジオだからこそのデッド感。楽器レコーディングでの感想は?

―今回、ツーファイブの新スタジオでは初の楽器レコーディングでした。全体的な感想はいかがだったでしょうか?

岩垂
まず、新しいスタジオで収録できてとても嬉しかったです。
初めてスタジオに入ったときに、声優さんの収録が主な用途ということで相当デッド(音の反響がほとんど無い)な感じで、音の余韻もあまりなく、どこまでうまく録れるのか。無響室みたいな感じの響きになっちゃうんじゃないだろうか。と
心配してたんですけれども、予想外に上手くいってたような気がします。

奏者の方々がイヤモニをしながら収録していたのですが、(イヤモニから流れる音の)リバーブが多いということで、リバーブを抑えたりなど、少し調整はありましたが、家にデータを持ち帰って単体の音にリバーブをかけてみた時には、とても良い感じで出来ておりました。

―元々もっていたイメージというのは、やはり「あまり音が響かなそうだな」という感じだったんでしょうか?

岩垂
声を録るには向いているんだけれども、
特に響きを利用した弦楽器のバイオリンとかに関して言えば、演奏しづらいんじゃないか。というのが一番懸念だったのね。
リバーブが乗ればなんとかなるって考えちゃうんだけども、演奏してる人たちは反響が無さすぎて難しいんじゃないかな。と思ってたんだけど、見てた分には全く問題なかったね。

オオタ
奏者のイヤモニには、少しリバーブを掛けた音を流していたのですが、逆に「リバーブを抑えて欲しい」と言われたぐらいだったので、僕もちょっとびっくりしました。
コントロールルームから見ていた時はちょうど良い感じにリバーブが乗ってるなと思ってたんですけど、響かせすぎたっていうのは意外な意見でしたね。

―奏者に気を使ってリバーブをかけていたら逆にそのリバーブを抑えてくれと。

岩垂
リバーブが入った方がわかりづらくなっちゃう。つまり元々バランスがしっかり取れてる部屋じゃないかなって思います。
あと、4人も入って長時間汗もかかないで皆演奏できていたのがすごい!
荷物や楽器ケースとか置いても、余裕で入れられたし。

―録音が始まれば、ブースに入りっぱなし。という事もありますし、汗とか息苦しさを感じるとストレスになりますよね。

オオタ
汗をかくようなスタジオは絶対にしたくない。という思いもあったので。換気とか、空調に関しては、しっかり施工業者さんと話を進めました。

岩垂
うん。本当そうだよね。長時間いるからね。

―(以前の池袋のスタジオに比べて)ちょっと広くもなりましたし、そういった意味では弾きやすかったんではなかろうかと。

岩垂
元々池袋にあったスタジオのブースっていうのは、響きとかそういうことに全く意識をしてなかったよね。
振動とかは勿論気にしてたけど…あとエアコン音が響いてたね笑

一同:笑

―次に、実際に収録した音やポジションについて聞かせてください。普通は左から1stヴァイオリン、2ndヴァイオリン、ヴィオラ、チェロと並ぶと思うんですが、途中からポジションの変更がありましたよね?

岩垂
今回、最初の並びは普通の並びで並んでもらったんだけども、途中で1stが聞こえ難いということで1stとチェロに真ん中に入ってもらった。
今思い返すと、すぐ後ろのディスプレイで反射して一部の音がふくよかに聞こえてたんじゃないかな。

―途中で楽器のポジションを変えたのはそういうことだったんですね。

岩垂
途中変えたことによってすごく良くなったんだけど、
かといって、これから弦四を録音するときは必ずこのポジションでっていうのもちょっとなんだしね。そこは検証しなきゃいけないね。

―マイクの位置はみんな高さは一緒ぐらいでしたかね?

オオタ
位置を入れ替えた時の位置調整を除けば同じ感じで立ててました。
ただ、やっぱり演奏者が並んだ真ん中側は音が大きく取れがちだったので、もうちょっとコの字型に大きく取って並べられればよかったのかなと思っています。

「響かないデッドな音」はアレンジし放題?試行錯誤した上で見つけたベスト

―ちなみにそのポジションを変えた場合っていうのはミックスされた音源もポジションはそのままってことですか?

オオタ
ミックスに関しては、作業途中でもうちょっとストリングスを広げたい。と岩垂さんからお話もあったので、
実は、1st&2ndと、ヴィオラ&チェロ、その二つをLRで振り切りにしてあるんです。
だから厳密にヴァイオリンの1stがちょっと真ん中寄りっていう位置には置いておらず、
ただ、かぶりの関係でチェロとヴィオラのマイクにもファーストも入っているので、ちょっと内側に聞こえるっていうのは、あったと思うんですけど、ミックス上ではパン振り切りです。
 
岩垂
振り切りなんだ。
でもすごくそういう意味では良い感じの広がりでバランスが取れていたと思う。
 
オオタ
パンをいろいろ振ってみながらバランスもとってみながら色々試したんですが
最終的にその形が一番良かったかなという感じがします。
 
岩垂
家でちょっと実験をして、1stとチェロをいつものところに持ってっちゃってね、
思い切り振って、で2ndとヴィオラを.. 適当に配置して…多分位相がおかしくなってるかもしれないんだけど、ちょっといい感じだった。

オオタ
僕もそれもやってみました。
色々試した中で、悪くなかったんですけど、やっぱメロがちょっと弱くなっちゃうかなあっていうのがあって、最終的には採用には至らなかったんですけどね。
 

―後々色々試せるという意味では、ある程度デッドに取れるってのは大きいかもしれませんね。

岩垂
そう、デッドだからこそ分離がはっきりしてる。

オオタ
そうですね。入れ替えとかもあんまり違和感なくできた感じはありました。
 
岩垂
思ったより違和感なくできちゃう。

オオタ
逆に響きについてなんですけど、ミックスではOcean Way Studiosというアメリカ西海岸にあるスタジオの部屋の響きをシュミレートしているリバーブをメインで使っていてそれを使ってあの響きを出しているんですね。
全然違和感ないなっていうのがありまして。
その上でより長いリバーブを足したりとかもしてはいるんですけど、いわゆる大きいスタジオで弦四を取ったときのような感じにはできたと思います。
デッドに録ったからといっても、後からいい感じに部屋感を作ることは出来るかな、と。
 
岩垂
部屋鳴りに左右されることなくできるよね。そう思った。

「美しいデッド」を目指すスタジオになってほしい

―岩垂さんが作曲時、フレーズやパート分けと考える時にスタジオのサウンドを考慮する事はありますか?

岩垂
実は俺はそれしないんですよ。
どのどういう状況においても同じような音が出るようにと思って譜面では作ってるので気にしていない。
でも人によっては気にしていて、 「この部屋のこういう響きだから、これ以上音入れたらおかしくなる」とか「音がデッドだからこそ、細かい音をいっぱい入れよう」とか、考える人達は多いですよ。
あと奏者に慣れてくると、「これ以上吹ける・弾ける」と奏者に合わせて持ってくる人も多い。
 
俺の場合は現場に行って初めて音を聴いて方針を考える感じ。
最初のリハーサルで弾いてる感じを聴きながら、「この響きだったらこういうオーダーを言っても大丈夫だろう。」とか。
4人ぐらいだったら1人1人の音がすぐ分かるからこの人だけマイクから少し離したりとか、パートのバランスがどうかなみたいな。

―エンジニア的にはスタジオで収録した音に関して、実際に想像してたのと「あれ、これ全然違うな」みたいなのありましたか?

オオタ
僕は想像通りの音をしてたなと思ってました。響かないスタジオだけど…
もう輝きがなくなるほど吸音されてるわけでもなかったし、リバーブのノリもすごく良かったので。
ただマイクをもう2本ステレオで立てたかったなっていうのがあったりはしました。
 
岩垂
オフマイクをやってみたかったよね。オフを試してみたかった。あのブースでオフマイクが必要であるかどうかってことをね。
 
オオタ
オフマイクだけも試したみたかったですね。結構よく聞こえるんじゃないかなとか、むしろバランスもよく聞こえるんじゃないかなとか。
 
岩垂
そうだね。それはある。そもそもマイクがなかったね。
 
オオタ
マイクがなかったですね。

―マイクは揃えたいですよね! 今は声の収録が主なのでNEUMANN U87Aiを中心にそろえていますが、楽器収録用にもほしい!

岩垂
マイクの位置や本数をちょっと変えたいねっていう時に、もうちょっと選択肢があると嬉しいかな。
マイクなどの選択肢が増やして、作家の要望でいろいろ可変できるようになれば、凄く良いスタジオになると思います。
 
オオタ
実は今回みたいな楽曲収録案件も増えてきていまして、ゆっくりかもしれませんが増えていくんじゃないかなと思います!
 
岩垂
美しいデッド、を目指して。
デッドなんだけれども、無機質じゃなくてなんか良い…綺麗だよねこの音が。って言われるような、
声優さんが喋っても、何かいい声で録れるね。って言われるような、
他のところとは違う、しっかり録れる美しい響きがするデッドなんです。っていうところ売りに!
そんなスタジオを目指してほしいな。
 

―ちょっと化粧がかった…気持ち良いサウンドだとテンション上がりますしね!

岩垂
そうだよね
もしかしたら部屋の四隅に何かちょっと細工するだけで何か変わるかもしれない。
見た目的にもあんまり汚くなったら嫌だけど。せっかく綺麗なスタジオなんだし。
 
オオタ
比べるところではないのかもしれないですけど、池袋スタジオ時代と比べると、モニターしてても音がまるっきり違います。すごくリアルな立体感のある音に聴こえます。
 
岩垂
そうだね。当社比では200%以上だね笑

オオタ
細かい部分は結構ブラッシュアップしてるので声優さんや演奏者さんにも感じてもらえたら!
 
岩垂
他のデッドを売りにしているスタジオとかは、絨毯とかバーって敷いちゃって響かないようにしてるよね。
そのあたりと比べてどうなのか?というのも検証していかないといけないね。
 
オオタ
実は他の「デッド」と言われているスタジオで録った音と比べた事あるんですけど、ツーファイブのスタジオの方がデッドです。
 
岩垂
デッドなんだ!
 
オオタ
デッドと言われてるスタジオでもやっぱりちょっと響いてるんですよ。
うちの場合、ゲーム音声のボイス収録が多く、少しの響きが後々大きく影響が出てしまうのでブースは特に、施工のときにお願いしました。
 
岩垂
美しいデッドになってると。
 
オオタ
フロアノイズもかなり少なく、電源だったりとか、他のところでも色々積み重ねて綺麗になってます。
 
岩垂
ノイズ小さいのはいいよね。
 
オオタ
ただ自分たちはそう思ってはいるんですけど、ノイズの数値的にっていうより、声優さんだったり演奏者さんだったりが気持ちよくお芝居、演奏ができるのが一番目指すところになるので。
そう言われるようにもっと工夫できれば工夫して、逆にこうしてほしいな、なんていう意見があったらそれもいろいろ補完ができるといいな、と常に考えています。

―はい。目指したいところですね。
ブース自体の響きをいきなり大きく変えるっていうのは難しいですから、やはりマイクの位置だったり、
ブース内に何か調整板みたいなものを置くとか…

オオタ
何か、モニターでもうちょっとリアルな、いわゆるデジタルなリバーブじゃなくて、
リアルな響き弦に合うような…そういう響きが演者さんに聴こえているとより気持ちよくできるのかなあとか。

―岩垂さん的にコントロールルーム側の音の印象はどうでしたか?

岩垂
音はね、聴きやすいかな。それほどシビアに聞いてなかったけれども、
それぞれの音が聴こえてたんで大丈夫だと思うね。

―そう言っていただけてほっとしました。大きいテーブルを置いているので、ディレクションの方も作業しやすいと思います。

どんな楽器を収録すると面白そう?

―今後いろいろな録音やミックスとかもやっていきたいのですが、録ってみたい楽器はありますか?
以前、岩垂さんはスルド(※1)を持ってるとお聞きしましたけど、スルドも録音可能です!

※1 ブラジルの打楽器。主にサンバやボサノヴァなどのブラジル音楽で使用される。

岩垂
もらってください。 そして保管して!笑
 
オオタ
スルド…録ってみたいですね。
パーカッションの多い系の仕事お待ちしてます!
 
岩垂
あとは、やっぱりボーカル・・・アコースティックギターは録った?
 
オオタ
アコギまだですね。
 
岩垂
アコギはやってみよう!
ストロークとアルペジオとか、アコギの響きが良くなるんだったらすごくいいな、って思ってる。
で、和楽器もきっと合うから。
尺八よりは三味線とか、弦系はこのスタジオと相性良さそう。

―三味線とか音がアタックが多くて難しそうですよね。

岩垂
そう。だからダイナミックマイクとかリボンマイクが必要。いいやつのね。

―今後実現できように僕たちも頑張ります!

 
岩垂
あと俺の要望は、コントロールルームのディスプレイに奏者がちゃんと映ってほしいな。小さなディスプレイではなく大きくね。
というよりセンターの大きいディスプレイに繋いで欲しい。スイッチングで切り替えでもいいので大人数が入っときは大きく見たいかな。
 
オオタ
わかりました。改善していきます!
ボイスを収録する事が多いのですが
今後色々な楽器収録も見据えて、機材や環境も改善していきます。
 
岩垂
はい。頑張ってください。色々使わせてもらいたいし、アトモスの方使ってみたいしね。
 

―そうですね。
アトモスミックスも今後色々計画中です!
本日はありがとうございました!

当日の収録の様子や楽曲は下記よりご覧いただけます。

【香川愛生とふたりで将棋」メインテーマ スペシャルバージョン】
作曲・編曲:岩垂徳行
【Strings:gaQdan】
第一ヴァイオリン:杉原 佳恵
第二ヴァイオリン:川崎 妃奈子
ヴィオラ:斎藤 千穂
チェロ:石貝 梨華
ピアノ、エレキベース、プログラミング:岩垂徳行
録音・ミックスエンジニア:太田将義
レコーディングスタジオ:ツーファイブ スタジオ

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