ゲームサウンドクリエイターインタビューVol.4 ーミクシィ 谷 賢史ー


第四弾ゲームサウンドクリエイターインタビューで取り上げるのは、ミクシィ所属の谷 賢史さん。

ゲームを作りたくてプログラミングを勉強し始めたところからゲームオーディオの世界へ足を踏み込んだという谷さんが大事にしていること、お気に入りのツールについてお伺いしました。


―クリエイタープロフィールー
谷 賢史(タニサトシ)
サウンドデザイナー

<制作に関わったタイトル>
・モンスターストライク(ミクシィ)
・バハムートディスコ(スクウェア・エニックス)
・THE MISSING ~J.J.マクフィールドと追憶島~」(アークシステムワークス)
・The Black Eyed Peas Experience(Ubisoft)
・DEMONS' SCORE(スクウェア・エニックス)
・Lips(Microsoft)
・燃えろ!熱血リズム魂 押忍!闘え!応援団2(任天堂)
・Elite Beat Agents(任天堂)

 

―まずはご経歴と、現在の主な仕事内容などを教えてください。

元々は自分でゲームを作りたくてプログラミングを勉強していました。
それもあって家にパソコンがあったのですが、そのパソコンを使って興味のあった作曲も始めて音楽にのめり込んでいきました。
音楽の学校で学ぶため上京してまもなく、当時その学校の講師であった篠田元一先生の事務所で働きはじめました。
その後、篠田先生がキーボード奏者して参加された、冨田勲先生の「源氏物語交響絵巻コンサート」海外公演のお手伝いとして同行したのが最初の大きな仕事です。
その後、楽器メーカーさんとのお仕事や、音楽系の書籍出版の仕事といった、さまざまな音楽に関する仕事をしつつ、25歳の時にゲーム業界に入りました。
ゲーム業界では、コンシューマー、スマートフォン、VRやテーマパークのリアル・アトラクションのサウンド・デザインを経験させてもらいました。

 

―現在のお仕事内容についてもう少し詳しく教えていただけますか?

現在は、スマートフォンアプリ「モンスターストライク」などの効果音、動画配信、イベントに必要な音を作ることをやりつつ、ミクシィ社が展開するさまざまなプロダクトや、イベントの案件を横断的にやっています。
具体的には、TIPSTAR、Romi、mocriといったプロダクト(※1)や、渋谷で開催されるNEXT GENERATIONSといったイベント、Bリーグの千葉ジェッツの試合中のサウンドも担当しています。
自分で曲や効果音を作ることもあるのですが、最近はディレクションや、案件の取り回し、組織やお金のマネジメント業務をやることが多くなっています。
そのほかに、副業でインディーズゲーム(※2)や、ショールーム(※3)、アーティストのライブで流れる映像のサウンド・デザインもやらせて頂いています。

(※1)
「TIPSTAR(ティップスター)」
…新感覚の競輪ライブエンターテインメント https://tipstar.com/top
「Romi(ロミィ)」
…自律型会話ロボット https://romi.ai/
「mocri(もくり)」
…ふらっと集まれる作業通話アプリ https://mocri.jp/
(※2)「ジラフとアンニカ」https://www.giraffeandannika.com/
(※3)「TEC 01 SIGHT SHOWROOM」https://mtblanc.jp/ourworks/4010/

 

―手広く担当されているのですね。ご自身のサウンドに強く影響を与えた出来事などはありますか?

元々はゲーム音楽が好きで、冒頭で述べたとおりDTMから作曲に入りました。
さらに元をたどると、マリオペイントやデザエモン(※4)になるのですが、とにかく電子音楽が好きだったんです。
ただ、上京してから仕事で触れる機会が多かったのは、ジャズやフュージョンといった音楽で、しかもレコーディングやライブなどで、生の演奏にふれることが多かったです。
今はもうないですが、仕事で六本木ピットインというライブハウスに頻繁に出入りすることになるのですが、そこで見聞きした音楽が今でも影響していると思います。
一流のミュージシャンの演奏をリハから本番まで、ずっと聞いて育った20代前半の経験が、いまの自分をかたち作っているという気がしています。
めちゃくちゃ叱られたりもしましたが、そこでマナーや礼儀なども教えてもらいました(笑)

あとは、プレイステーションの登場が大きな出来事でした。
冒頭で述べたとおりゲームを作りたくてゲームデザイナーやプログラマになろうとしていたのですが、媒体がCDになり、小室哲哉さんのガボールスクリーンや、松浦雅也さんのパラッパラッパーなどが登場してきて、これからは音楽をやっていてもゲーム制作に入り込むチャンスがあるなと感じたんです。

(※4)「デザエモン」
…株式会社アテナによって発売されたオリジナルのシューティングゲームを作れるソフト。

 

―ゲームを作るために、音楽という手段を選んだ、という感じですね。制作・実装において心掛けていること、モットーなどはありますか?

サウンド・デザインということに関して言うと、ただ音を作るだけではなく、デザインすることを大切にしています。
ゲームは誰かが意図してそこに音をつけようと思わなければ無音ですから、ゲームで音が鳴っているという事は必ず誰かの意図によって鳴っているはずです。バグじゃなければ……(笑)
なんの意図を持って音をつけるか?どういう意図で、どういう音が必要か?ということを考えながら作るようにしています。音で気持ちよさを感じてもらいたい、音でユーザーになにかを示唆させたい、音で情景を描写したい、いろんな意図がありますよね。

もちろん音をつけるだけでなく、音をつけないことも意図した音のデザインです。
一つ一つの音もすごく大事ですが、音の状況をどうデザインするかというのを大切にしています。
また、ゲームはチームで制作することが殆どですから、ゲーム・デザイナーやグラフィック・アーティストたちの様々な考えをすり合わせて設計していくことを心がけています。
ほかには、サウンド制作は往々にして制作フローの終盤の工程になりがちなので、全体の状況を常にキャッチアップし、下ごしらえとか、スケジュールやリソースの調整をするようにしています。

 

―ゲームサウンド制作におけるお気に入りのツール、ソフト、リスニングデバイスなどがあれば教えてください。

Steinberg CubaseとNuendoは長くつかっているので、お気に入りのツールですね。
あとはMAGIX SoundForge Proもよく使います。最近は波形編集と、ラウドネス調整にiZotope RX8を使うことも多くなりました。

プラグインだと、NEVE 1073が好きなので、それをシミュレートしたプラグインはよく使います。シンセだとReveal Sound Spireがとても気に入っていて効果音制作にもよく使います。
 

最近導入したADI-2 Pro FS R Black Editionも気にいってます。音の面でも満足ですが、ボリュームのツマミを回した時にちゃんとデジタルで表記されるので、音チェックの時にいつも決まった音量に設定して聞くことができるのでありがたいです。
特に最近はラウドネスを耳である程度調整してから作業するので、モニタリングの音量を毎回同じにするのは重要だと思っています。
 

 

―ゲームサウンド制作以外で、今精力的に取り組んでいることはありますか?

私はゲーム制作の現場では、テクニカル・サウンド・デザイナーという役割が最も近いと思っています。
ミドルウェアを使ってどう実装するかを設計したり、どういうデータで格納しようか、負荷をどう抑えるかといった技術的な問題を、 プログラマさんや、グラフィックの担当者と協力しながら作業することが経験上多かったです。
そういった業務を通じて、ゲームで使われているテクノロジーやノウハウは、ゲームだけに留めておくのは惜しいということを感じていたので、より別の分野でも応用していきたいという思いがあります。
UnityやUnreal Engineなどは既にゲーム以外の分野でも多く取り入れられていますよね。
コストとの兼ね合いですが、ゲームの技術を使ってより面白い表現が出来るならいろんな分野にそれを広げていきたいと思っています。

 

―今後ゲームサウンドで実現したいことはありますか?

インタラクティブ・ミュージックは今では当たり前になっていると思います。
映像やゲーム展開に合わせた感情曲線に、音楽がインタラクティブに追従する演出というのはものすごく没入感があって素晴らしいことだと思います。僕自身、そういったロジックをうまく仕込めた時は、サウンドデザイナーとしてものすごく達成感を得ます。
ただ最近は、逆にお膳立てしすぎている感覚もあって、だれがプレイしてもある程度同じ状況をロジック側が作り出すことに、少し疑問を感じています。ゲーム実況が一般的になっているので、プレイヤーする人によって多少演出に強弱があってよいのではないか?それこそ、上手な実況者だからこそ魅せるプレイ動画が作れるような。用意したロジックと、ユーザーさんのプレイによる相互関係によって作られるゲーム体験の、ベストな塩梅を探っていくのも面白いんじゃないかと思っています。

 

―ありがとうございました!


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