立体音響ソリューションSound xR標準搭載!ADXの新しい機能紹介

はじめに

CRI・ミドルウェア第1開発部、ADXチームのチョです。
CRI ADXの最新アップデートにて、ヤマハ株式会社の仮想立体音響ソリューションSound xRを標準搭載しました。Sound xRを使用することで、複数のプラットフォーム向けに立体音響を導入することが簡単にできるようになります。この記事では、Sound xRがどのような機能なのかを説明し、Sound xRの活用に役立つADXの立体音響機能のコンセプトを紹介します。具体的な使い方は、公開されているマニュアルを参照してください。

Sound xRとは

Sound xRは、頭部伝達関数などの技術を用いてヘッドホン向けのバイノーラル音声を生成するソリューションです。音源の位置情報を使用し、その場所から音が聞こえるような音像を仮想的に作り出します。

こういう時におすすめ

VRなど、一人称視点のゲーム

Sound xRは前後左右の音をリアルに再現するため、一人称視点のカメラで最も効果を発揮できます。
特にVRはプレイヤーの視線がゲーム内のカメラと一致しており、Sound xRとの相性が抜群です。

シーンの臨場感を高めたい

Sound xRは音に広がりを持たせることができ、プレイヤーを包み込むような表現がしやすくなります。
イベントシーンなど高い臨場感が求められる場面で、従来のステレオ再生よりも高品質な表現が可能になります。

音声の定位感をはっきりさせたい

一度にたくさんの音声が発音されたとき、Sound xRは個々の音に対して音像を生成することができます。
一つ一つの音に対して高い定位感が得られるため、それらが聞き分けやすくなる効果があります。
これはゲーム以外のアプリケーションでも活用でき、例えばボイスチャットなどで複数の人が同時に話した場合に役に立ちます。

知っておくこと

Sound xRはヘッドホンで再生することを前提としたソリューションです。ゲーム機やスマートフォン向けのゲームは、もちろんヘッドホンでのプレイも想定するため、Sound xRを存分にご活用いただけます。残念ながら、スピーカー再生のみを想定したアーケードゲームなどでは使用できません。

立体音響の効果を正しく得るためには、ADXのチャンネル構成を5.1 ch以上に設定する必要があります。チャンネル構成をステレオに設定してSound xRを適用すると前方からのみ音が聞こえるような音像になりますのでご注意ください。

プラットフォーム機能に対するメリット

一部のプラットフォームは、OSの独自機能としてバイノーラル再生などの立体音響機能をサポートしています。
プラットフォーム固有の立体音響機能に比べて、Sound xRは以下のようなメリットがあります。

マルチプラットフォーム開発

Sound xRの最大のメリットは、CRI ADXの中で立体音響処理がなされるため、どのプラットフォームでも同じ出音が得られることです。自前の立体音響機能を持たないものを含み、CRI ADXがサポートするほとんどのプラットフォームで動作します。

CRI Atom Craftでのプレビュー

Sound xRはCRI ADXのオーサリングツールであるCRI Atom Craftにも組み込まれています。そのため、アプリケーションを実機で動作させる前に行うデザインの段階で出音をプレビューすることができます。また、すべてのプラットフォームで同じ出音を出力するため、機種ごとに確認を行う手間も減らすことが可能です。

デザイナーフレンドリー

Sound xRには定位感を重視したモードと音質を重視したモードがあり、どちらを使うかをサウンドデザイナーの意向で選択することができます。またアプリケーションの中で処理されるため、OSのアップデートやユーザーの環境設定といった外部要因によって出音が変化することがありません。そのため、サウンドデザイナーがSound xRを基準にデザインした音を、ユーザーに意図通り届けることができます。


ADXの立体音響機能

CRI ADXに追加された立体音響機能は、Sound xRはもちろん、プラットフォーム固有の機能も考慮して設計しています。そのため、プロジェクトに応じてプラットフォームの機能とSound xRのどちらを使用するかを柔軟に決めることができます。例えば、ヘッドホン使用時にSound xRを使用し、スピーカー再生時にはプラットフォーム機能を使用するように設計することも可能です。

バイノーラライザー

新しいADXにはバイノーラライザーというモジュールが追加されました。バイノーラライザーは名前通り、自分に入力された音声にバイノーラル処理を行い、ヘッドホン向けステレオ音声として出力します。Sound xRは、バイノーラライザーが用いるアルゴリズムの1つとしてADXに組み込まれています。
バイノーラライザーによる処理は、ADXによる音声出力の最終段階で行われます。そのため、バイノーラライザーを有効にした場合、ADXで再生された(立体音響を適用しないように設定した音声以外の)全ての音声がバイノーラル再生されます。バイノーラライザーはアプリケーション実行中に自由に有効・無効の切り替えが可能です。
自前の立体音響機能を持つプラットフォームであっても、ADXの機能により、バイノーラライザーの処理とプラットフォームの処理とが重複してかからないように動作するため、複雑なハンドリングは必要ありません。

ADXの音声再生方法

最新のアップデートでは、立体音響に関していくつかの音声の再生方法に対応しました。これらの再生方法を活用することで、より没入感のある立体音響を設計することができます。

チャンネルベース再生

チャンネルベース再生は新しい再生方法ではなく、今までの再生方法を含むものです。音声素材を再生すると、音声の位置情報に合わせて、特定のスピーカー構成のマルチチャンネル信号に変換されます。
チャンネルベースで再生した音声をバイノーラル処理する時は、各スピーカーの位置に仮想の音源を配置して再生します。例えば5.1 chの音声の場合、(LFEチャンネルを除き)リスナーの周りに5個の音源を配置し、各スピーカーの音声をそれぞれの音源から再生します。
ADXは今まで最大7.1 chのスピーカー構成に対応していましたが、最新のアップデートでは7.1.4 chへの対応が追加されました。7.1.4 chで音声をレンダリングすることで、プラットフォーム機能を使用して7.1.4 chの外部出力ができる他、Sound xRなどのバイノーラライザーを使用して再生する場合にも縦方向の表現ができるようになります。

オブジェクトベース再生

オブジェクトベース再生は立体音響に特化した音声の再生方法です。この方法では、音声をマルチチャンネル信号に変換する代わりに、音声データと音源の位置情報が直接バイノーラライザー(またはプラットフォーム)に送られます。
Sound xRなどのバイノーラライザーは、音源の位置情報からバイノーラル音声を生成します。チャンネルベース再生とは異なり仮想音源を介さないため、より高精度のバイノーラル処理を行うことができます。
また、一部のプラットフォームは、オブジェクトベース再生された音声を受け取って独自の立体音響処理を行います。ADXのオブジェクトベース再生は、そのようなプラットフォーム機能にも対応しています。

Ambisonics

Ambisonicsは球面調和関数を使用した音声の録音・再生方式です。
最新のADXは、最大で三次のAmbisonics音声素材を再生することができます。通常の音声をAmbisonicsに変換・ミックスする機能は、今後対応予定です。
Ambisonics音声もバイノーラライザーを通してバイノーラル音声として再生することが可能です。また、Ambisonics音声を直接再生できるプラットフォームでは、ハードウェア機能を使用した再生にも対応しています。

最後に

Sound xR及びADXの立体音響機能は、従来の方式と相反するものではありません。あくまで今までの再生方法を拡張したり補助的な役割をしたりするもので、今までのワークフローにも低コストで組み込めるように設計しています。
例えば5.1 ch以上でデザインしているプロジェクトなら、Sound xRを有効にするだけで効果を体験していただけます。その上で、より高い没入感を得るために7.1.4 chやオブジェクトベース再生などの機能を利用することも検討してください。
Sound xRはADXの標準機能として搭載され、追加料金なしでご使用いただけます。使用に当たってご不明な点やご相談などあれば、お気軽にサポートにお問い合わせください。

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