『スマートフォンアプリに振動演出が付く未来』触覚ミドルウェア「CRI HAPTIX」研究開発部の櫻井氏に訊く

※本記事のオリジナルは2017年11月17日に投稿されたものです。


こんにちは、NINE GATES STUDIOの神山です。”ゲーム”と”振動”。思い返せばこの2つはいつも密接な関係にありました。今でこそコントローラー側にスピーカーが内蔵されているケースもありますが、「ゲームのシーンに合わせてコントローラーが振動する」というのは、長いあいだ入力端末であるコントローラー側が持ち得る唯一の出力機能でした。ゲームの情報を触覚としてフィードバックする、音、映像とは違う機能として、とても重要な意味を持っています。

さて、そんな振動ですが、考えてみるとiOSやAndroid端末は本体機能として振動を持っているにも関わらず、ゲームでの実装事例は少ないように思います。そこで今回は、スマートフォンの振動の実装を容易するCRI・ミドルウェア『HAPTIX』について、株式会社CRI・ミドルウェア 研究開発本部 本部長 櫻井氏にお話を伺いました。

神山:それでは、宜しくお願いいたします。まずは「CRI HAPTIX」について、概要を教えて頂けますでしょうか。

櫻井:はい、「CRI HAPTIX」は弊社が発表をさせて頂いた触覚ミドルウェアです。これまでCRI・ミドルウェアは音声と映像の会社です、という言い方をしていましたが、この聴覚・視覚に加えて3つ目の感覚として「触覚」の実装も出来るようになりました。今、スマートフォン端末の振動機能はほとんどゲームで使われていません。我々テレビゲームをずっとやって来ていた業界の人間としては、コントローラーは振動して当たり前でしょう、と思うわけです。なぜ振動させないんだろう?というのを考えた時に、やはり技術的に振動が使いにくかったというのがひとつあったのかなと思っています。弊社に振動周りを研究している人間が入って来たり、振動技術の会社と繋がりが出来たりという流れから、「振動」を一度ミドルウェアにしてみようと思いました。

神山:なるほど、ちなみにHAPTIXはADXの追加機能として内包されると聞いておりますが、単体で設計しなかった理由はあるのでしょうか。

櫻井:サウンドミドルウェアの「ADX」には、タイムラインがあります。ひと目みてわかりやすく「音がそこに並んでいます」という状況でして、ここに振動を並べれば感覚的にすぐ使えるのではないかというのが出発点でした。そこを連携させれば、ワークフロー全体として便利だと考えたのです。タイムライン表示と、すぐにインゲームで試せる機能、この2点ですね。


ADX2の編集ツール、AtomCraftで振動デザインをしている様子。
中央の緑色の波形が振動パターン、その上の青い波形が音声データです。このように音と振動のタイミングを視覚的にもわかりやすくデザインできるのが特徴です。

神山:既存のゲームに倣いながら、そしてADXの親和性というところを見て、振動をつけようと思ったということですね。

櫻井:そうです。テレビゲームとスマートフォンゲームを比べた時、スマートフォンゲームにしかないものもたくさんあるんですけど、機能としてあるのに使われていない!という状況はどうかなという想いがありました。探せば一部、振動が実装されているタイトルもあるのですが、ごく少数です。

神山:なぜ振動を採用したゲームが少ないのか、要因のようなところはあるのでしょうか。やはり実装部分のハードルの高さ、という形でしょうか。

櫻井:プログラム的な話になるのですが、iOSはもともとパターン固定で振動コントロールができず、Androidの場合は振動のオン/オフを、それぞれ何ミリ秒なのか自分で並べなさい、という形でした。単純にブザー的なブーっていう振動しか出ないとなると、演出としては弱いですよね。家庭用ゲームではゼロイチではなくもう少し細かい制御が出来たので、そういった点なのかなぁ、と思います。

神山:Androidの実装というと、よく機種依存でレイテンシーがあったり、そもそものお作法が少し違ったりというのを良く耳にしますね。

櫻井:実はImmersion Corporationという振動技術の特許で有名な会社がありまして、そこと色々ご縁があって。Immersion社がAndroidでいろいろな振動パターンを表現するためのライブラリを作っていて、実はCRI HAPTIXもこれと連携しているんです。なので、先ほどお話したゼロイチの振動ではなくパターン指定できるような仕組みを実現できています。

神山:なるほど、ちなみにiOS版はいかがでしょうか?

櫻井:iphone 7が出た時に、ホームボタンが物理的に押せなくなりましたよね。あの頃からAppleも振動でいろいろやり始めていて、いくつかのパターンが定義されました。そこで、iOS版も作ってみようとなったんです。これは今年に入ってからですね。

神山:ちなみに、CEDEC+KYUSHUではADX上でバリバリに動くHAPTIXを拝見しておりますが、実際に現場のワークフローとしてはサウンドの方が振動まで制御する、というところで考えているのでしょうか?

櫻井:そうですね。今はADXの使い方ひとつ取っても多岐に渡っているのですが、一番理想形はサウンドデザインと同じで「ハプティックデザイン」という概念が生まれてくることです。振動演出をデザインすることがゲーム開発の中で大切な役割になってくることが目指すところです。

神山:ハプティックデザイナー、ですか。

櫻井:はい。今はそういう担当は居ないことが多いですね。研究界隈だとある程度試行錯誤している方もいるのですが、まだなかなかノウハウもありません。これまではサウンドデザイナーが音を付けた後に振動を付けて確認する、とか、プランナーが振動を付けていた、という作り方だったと思います。その時はADXのように音ではなくグラフィックのエフェクトを作るようなツールに振動機能を乗せる、という事もあったり、いろいろなやり方がありました。

神山:サウンド側からのアプローチに見えますが、ワークフローは何か想定してという形ではなく、自由にやって欲しいと。

櫻井:そうです。もしかするとプランナーがADXを触るような未来もありえるかも知れませんね。

神山:ちなみに、今後HAPTIXがどういうコンテンツに利用されていくかという想定はありますか?

櫻井:自分としてはどうしてもテレビゲームのイメージを持っているので、どんなゲームでも相性は良いと思っているんです。振動ありきで考えると難しいのですが、ワンポイントで良いと思うんですね。そう考えると、アクションゲームとかRPGだけじゃなくて、アドベンチャーゲームでのちょっとした、例えばドアをノックして人が入ってきた時の演出などにも使えると思います。それくらい、特別なものと捉えるよりは気楽に使えるものとして広まって欲しいなぁ、と思いますね。あとは…ガチャとの相性は良いと思います。

神山:高レア度のものが手に入ると、大きく振動する、みたいな。今は音と絵で派手さを表現しているので、まさに五感の3つ目ということで相性は良さそうですね。

櫻井:そうなんです。電車の中で音を消して遊んでいても、「おっ!」という感じがするみたいな。なので、もともとどこにでもつくはずの演出なんですよ。逆にやり過ぎるとくどくなっちゃうところもあるかも知れません。

神山:やり過ぎるとくどくなるという部分については、やはり既存ゲームのノウハウも通用する部分があるということでしょうか。一昔前のゲームのムービーシーンなどは、常時振動していたような気もします。

櫻井:そうですね。テレビゲームを作っていた方であれば、コントローラーがどう振動していたのかのノウハウは溜まってきているので、それを上手く使っていくと良いんだと思います。

神山:振動のケーススタディ、知見のようなものは、今現在どういうふうに蓄積されているのでしょうか?理論というほど、体系立ってはいない?

櫻井:今はまだ、ないと思いますね。波形入れて作るのか、パターンでやるのか、オン/オフでやるのか、それぞれやり方も違いますので、なかなか情報収集が難しいところだと思います。

神山:なるほど、では逆にそれを画一的にというか、まずはこれを使えば振動が簡単に実装出来ますよ、というミドルウェアは重要な意味を持ちそうですね。あとは、先ほども少し話したのですが、HAPTIXが今後発展するとしたら、どういう方向性になるんだろう?というのが気になっています。五感のうち3つを、という話がありましたが、行く行くはどのようなツールを目指していらっしゃるのでしょうか。

櫻井:VR界隈ですと嗅覚が来たりだとか、同じ触覚でも振動ではない風の演出や熱の演出など、色んなギミックが今は取り入れられていますが、CRI・ミドルウェアとしては、まずは音と映像、そして今は触覚もやり始めましたが、この辺りをもっともっと良くしていきたいと思っています。ゲームに対する音は、頑張って自然につけるほど、インパクトが減っていくんです。自然に、コンテンツに寄り添えるデザインというか。振動も、同じくらい自然な方向に持っていきたいと考えています。最終的には体感が出来てナンボですので、試行錯誤する回数だとか、作る手間をどれだけ減らせるかなというのがツールの大事なところだと思っています。地味な回答ですみません。

神山:いえいえ!ツールとしては、どのような使い方をされても対応できるような懐の深さを持ちつつ、色んな人が気楽に使えるというところを目指しているということですね。尖ると分かりやすくなるけど、刺さる人も減るというか。バランスですね。

櫻井:ちなみに、振動デモをやり始めた時に、「Ringo Attack!」というデモアプリを作りました。これはもともとADXのデモプログラムとして作ったもので、Unityで制作しています。ありったけ振動演出を入れ込んだゲームが、ストアの申請をパスするかという実験でもあったのですが、無事に公開されています。iPhone 7以降であればお試しになれますので、スマートフォンゲームの振動に興味がある方は遊んでみて頂けると幸いです。



iPhone7以降の端末で遊ぶと、「キャラクターを召喚する」「攻撃する」「ボスが出てくる(画面いっぱいのアラート演出)」などに振動演出が付加されているのが体験できます。それ以前の端末でも動作はしますが振動演出は省かれます。

神山:CRI・ミドルウェアが自社ゲームを出している!というのも、実は面白いトピックですね。最後に、ADXをお使いの方、または興味のある方に向けて、メッセージを頂けますでしょうか。

櫻井:はい。CRI・ミドルウェアは、色々なゲーム会社さんに技術提供をしたり、学生さんやインディーの方向けに「ADX2LE」もやっておりますが、やはり使って頂ける人をどんどん増やしたいという気持ちが今は強いです。みんなに触ってもらってフィードバックをもらって、その改良結果がみんなに戻って行くっていうのが、ミドルウェアのおいしいところだと思うんですね。それをもって、またみなさんが喜んでもらえるようなもの作って行きたいと思っています。

神山:たくさんのフィードバックを頂いて、一緒にいいものを作って行きましょう!ということですね。国産ならではのフットワークの軽さかも知れません。櫻井さん、長い時間ありがとうございました。

櫻井:はい、ありがとうございました!


CRI HAPTIXに触れた、サウンドデザイナー達のインタビューはこちら


【CRIWARE】VST対応、振動アプリ体験のクリエイターインタビュー!【CEDEC+KYUSHU2017】


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