ゲームサウンドクリエイターインタビューVol.7 ーソナ 染谷和孝ー

ゲームサウンドクリエイターインタビューの第7回で取り上げるのはソナの染谷さん。

数々の作品に関わり、世界標準のサウンドを求め続ける染谷さんが大切にしていること、若い人たちに期待することに関してお伺いしました。


―クリエイタープロフィールー
染谷 和孝
株式会社 ソナ 制作技術部
サウンドデザイナー/リレコーディングミキサー

1963年東京生まれ。東京工学院専門学校卒業後、(株)ビクター青山スタジオ、(株)IMAGICA、(株)イメージスタジオ109を経て、2000年にソニーPCL株式会社にて、アジア初のTHX pm3スタジオを構築。また2007年には(株)ダイマジックにてTHX pm3の7.1ch対応、2014年には(株)ビー・ブルーのTHX pm3 Dolby Atmos対応スタジオの設立に参加。2020年に株式会社ソナ制作技術部に所属を移し、サウンドデザイナー/リレコーディングミキサーとして活動中。
2006年よりAES(オーディオ・エンジニアリング・ソサエティー)「Audio for Games部門」のバイスチェアーを務める。また、2019年9月よりAES日本支部 広報理事を担当。

<制作に関わったタイトル>
リレコーディングミキサー
・バウンサー(スクウェア)※ゲームメディア初の5.1ch作品
・ファイナルファンタジーⅩ(スクウェア)
・メタルギアソリッド4(コナミデジタルエンタテインメント)
 など

サウンドデザイン/リレコーディングミキサー
・ソニック・ザ・ヘッジホッグ(セガ)
・NieR Automata(スクウェア・エニックス)
・ANUBIS ZONE OF THE ENDERS : M∀RS(コナミデジタルエンタテインメント)
など

<TVCM、映画等で関わったタイトル>
・たむら しげる監督作品 「銀河の魚」
・ニッテンアルティー制作 岩井俊二監督「コーセーサロンスタイルTVCM」
・TBS+東宝制作 映画「Rookies劇場版」
・スクウェア・エニックス制作 「Final Fantasy Ⅶ/AC Comp版」
など

 

―長年サウンド業界で活躍されている染谷さんですが、今現在の主な仕事内容や活動内容を教えていただけますか?

現在は(株)ソナの制作技術部に所属をしており、映画作品やゲーム作品などの映像作品を中心としたサウンドデザイン、リレコーディングミキサーを担当しております。
また、非常勤講師として、東京藝術大学/音楽環境創造科の「サウンドデザインとオーディオディレクション」の授業、加えて音響芸術専門学校の夜間部授業も担当しています。
 

―ご自身が携わってこられた音楽活動に、大きく影響を与えたと思える人、出来事は何でしょうか。

これまで非常に多くの皆さまに支えて頂き、ここまで進むことができました。
ですので、多くの出来事が有り過ぎて何をお話しして良いか迷ってしまいますが……「大きな影響」ということで言えば、Skywalker Soundの初代GMであったトム・スコット氏、サウンドデザイナーのランディ・トム氏、ゲイリーライド・ストローム氏、クリストファー・ボーイズ氏との出会いから多くの教えを頂き、大きな影響を受けました。
私には多くのジェダイマスターがおります。
また、全体のことで言えば、AESなど海外イベントへの参加を通して多くの方々との出会い、「世界基準」という視点や感覚を体験し、自分が大きく変化したと思います。

 

―音楽制作において心がけていること、モットーなどはありますか。

①テーマを持って仕事に臨むこと。
②良い準備をすること。
③世界基準で仕事を進めること。
④無理はするけど無茶はしない。

です。
 

―それぞれの項目について詳しく聞いても良いでしょうか。

①テーマを持って仕事に臨むこと。
これは私のようなチャンスが少ない方に是非お勧めしたいのですが、自分自身のテーマ、例えば、得意な分野を伸ばすのも良いでしょうし、不得意な分野を克服することも大切です。
もし、チャンスを頂けたなら自分にテーマを課し、達成できるように追い込みます。

②良い準備をすること。
そのテーマを確実に達成するためのプランを考え、実行計画を作成。その計画に基づいて
できる限りの準備をします。

③世界基準で仕事を進めること。
頂いた案件を世界基準のクオリティーで仕上げるための努力を行います。ワークフローの見直しから、サウンドデザイン方法の再検討やプローツールのセッション構成(世界で通用するセッション構成)に至るまで熟慮します。もちろん、それでも至らないわけですが。特にゲーム作品のエンドユーザーの方は世界中におりますので、「世界」を意識することは大切ですね。

④無理はするけど無茶はしない。
自分の体験を通してのご説明ができませんが、人が成長するには「ほんの少しの無理」が必要だと思っています。当然、無茶をすると体を壊してしまいますから、絶対にしてはいけませんが、自分が向上するための「少しの背伸びやチャレンジ」がないと人間は成長できないと思っています。テーマの部分と重複しますが、少しの「無理」を大切にしています。

 

―音楽制作をする時のお気に入りのツール、ソフト、リスニングデバイスを教えてください。

特にはありませんが、主にPro Toolsで作業しています。
また、効果音の検索にはSoundminerを使用し、ソフトサンプラーは主にストラクチャーを使用しています。これからはReaperにもトライしたいです。
 

―音楽制作以外で今精力的に取り組んでいることはありますでしょうか。

特にはありませんが、なるべく時間を作って子供と遊びたいですね。
それ以外ですと……プロサウンド誌など様々な執筆活動でしょうか?
私はAESのAudio for Gamesのメンバーですので、2010年頃から日本での活動として「プロサウンド誌」のご協力を得て、「Game Audio Report」と題したGame Audioのインタビュー記事を始めました。
その当時からGame Audioという分野は非常に価値の高いプロオーディオとしての仕事をしていましたが、なかなかその内容は紹介されない状況でした。ゲームに作品に対する私の勉強を深めるためにも記事連載を始めました。当初は「ゲームの一部分にしか関わっていない人間に何がわかるのか?」とお叱りを受けたりもしましたが、結果としては皆さんのご理解を頂けて、かなり長く連載をさせて頂きました。現在はゲームのみならず、イマーシブ的な部分や人にスポットを当てた記事として継続をしております。これからもこの記事の中でゲームのことを様々に取り上げてお伝えしたいと思います。

 

―今後ゲームサウンドで実現したいことはありますか?

既に取り組んでいますが、世界基準での音響制作とイマーシブ対応です。
現在はDolby Atmosを中心にサウンドデザインとリレコーディングミックスを行っていますが、やはり「世界基準のMade in Japan」を実現したいです。これは私自身がというより、皆さんと一緒に実現しないと意味がありませんので、特に若い皆さんは、「日本基準」ではなく「世界基準」の感覚を持って頂き、世界と仕事をして頂きたいと感じています。ハリウッド映画で有名な作曲家に音楽をお願いしたら「世界基準」になる訳ではないですよね。残念ながらそういう感覚ではないんです。これは英語が話せる、話せないでもありません(もちろん、話せたほうが良いですが……)。
 

特にゲームにおける音楽を制作をされている方々、またそれを目指している方々に一言お願いします。

これは単に私が感じていることですので、皆さんに当てはまるのか?かなり微妙ですが、私は音響制作も音楽も学問だと思っています。
もちろん「感性」とても大切ですが、感性は「体験や記憶」ですから、残念ながら「コンスタント」ではありません。しかし、仕事はコンスタントを要求されます。感性の不安定さをフォローしてくれるのが「理論や知識」です。
特に授業の中で学生の皆さんにお伝えしているのは、以下の2つです。
①「理論+知識」と「感性」は車の両輪です。
どちらが大きくても車は真っ直ぐ進みません。だから両者のバランスがとても重要です。
②音響制作にボーダーはありません。
ゲームも映画も「基本」は一緒です。物事には「基本や型」があります。その「基本」が出来てこその「個性」です。
お説教臭くて申し訳ありませんが、私がサウンドデザイナーとして、そしてリレコーディングミキサーとして正直に感じる大切なことです。
 

―ありがとうございました!

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