m.o.v.eの『頭文字D』楽曲のDolby Atmos MixをCRI本間が担当! MOTSUさん、エイベックスさんとともに制作を振り返ります!

 アニメやゲームなど幅広い分野にメディアミックスされている『頭文字D』の楽曲を数多く担当し、クルマ&ユーロビート好きから絶大な支持を得ている音楽ユニット、m.o.v.e。その数ある人気曲からアーケードゲーム『頭文字D THE ARCADE』で使用された「Gamble Rumble」「DOG FIGHT」「Raise Up」の3曲が空間オーディオ化され、1月25日に配信EP 『Driving Music Selection』(Dolby Atmos Mix)としてリリースされました。このDolby Atmos Mixを、弊社のサウンドエンジニアである本間 清司(Honmax)が担当しました! 長年にわたってゲームやモビリティ分野の音声技術の研究開発やミドルウェアの提供を行なってきたCRIが、音楽コンテンツに携わることになった理由とは?

 m.o.v.eのラップ担当であるMOTSU、エイベックス・エンタテインメントのA&R・大場 正幸氏、HonmaxにDolby Atmosが実現する音楽の可能性についてお聞きしてきました。

リスナーの周囲をぐるりとまわるラップやエンジン音の遊び心 Dolby Atmos Mixだからこそできる従来にはない音楽体験

──Dolby Atmosといえば「空間オーディオ」というキーワードでトレンドとなっている立体音響技術ですが、m.o.v.eの楽曲をDolby Atmos Mixすることとなった経緯を教えてください。

CRI本間(以下、Honmax):CRIは、Dolby Atmosに対応したスタジオを2022年1月に建設しました。没入感を増幅させる技術として、今やゲームのサウンドデザインでDolby Atmosは定番となっています。一方で私は以前、m.o.v.eさんの楽曲「FLY ME SO HIGH』(2001年リリース)や『頭文字D』アルバムなどのリミックスを何曲か担当させていただいたことがありました。当時はL+Rの2ミックスが音響技術の限界でしたが、Dolby Atmos Mixであればユーロビートをクラブで聴くような臨場感を表現できるんじゃないか? と思ったのがMOTSUさん、大場さんにお声がけしたきっかけです。

MOTSU:僕もオーディオは好きで自分のスタジオでサラウンドとかいろいろ試してきたけど、最近はDolby Atmosが音楽でも面白いことになってるらしいと小耳に挟んでたんで興味はあったんですよ。

エイベックス大場(以下、大場):音楽や動画配信サービスにもどんどん普及して、Dolby Atmosに対応したスマホやヘッドホンも増えてますしね。

MOTSU:ただ現状、音楽のほうは立体感よりも音質向上みたいなほうにこの技術を使ってるケースが多くないですか? ゲームとかに比べるとイマイチ遊び心がないというか、せっかくならもっとアグレッシブに振り切ったほうが面白いんじゃないかなと思ったりしてたんですが。

Honmax:おっしゃる通りで、音楽への導入はまだ過渡期ということもあって、ある意味で保守的なDolby Atmosの使い方が多いと思います。その点では大場さんの的確なディレクションが『Driving Music Selection』の1つの方向性を決めてくれたところがありましたね。

大場:あれですかね? MOTSUさんのラップを訴えかけるような配置にしてみたらどうか?とお伝えした──。

Honmax:そうです。ラップはメッセージ性を司るパートだから「歌っている」よりも「伝えている」ふうに聞こえるようにしてほしいというディレクションをいただいてMOTSUさんのラップをリスナーの耳のそばで聞こえるような配置にしました。さらにもうちょっと遊んで、一部のパートでMOTSUさんがリスナーの周りをぐるっと走っていくイメージの表現を入れてみました。MOTSUさんに聞いてもらって怒られたら修正しようとは思ったんですけど(笑)。

MOTSU:いや、めちゃくちゃ面白いアプローチだなと思いましたよ。2ミックスの音源を聴き慣れてたんで、最初は音が真後ろから聴こえてくるのにびっくりしたけど、ようはライブでステージを降りてパフォーマンスしてる感じですよね。リアルではあそこまでオーディエンスの周りをグルグル走り回れないと思うけど(笑)。

Honmax:音を3D空間に配置できるのは、まさにDolby Atmos Mixの得意とするところです。またユーロビートって実はすごいたくさんの楽器が鳴ってるじゃないですか。だけど2ミックスのステレオでは、どうしてもボーカルとシンセとドラムが際立ってしまう。Dolby Atmosならギターがどこで鳴ってるか、ボーカルの後ろに何人コーラスがいるかまで空間として表現できますし、その点でもユーロビートはDolby Atmosととても相性のいいジャンルだと思いますね。

── 配信EP 『Driving Music Selection』には3曲のDolby Atmos Mixに加えて、楽曲にエンジン音&ドリフト音が混ざった「Driving ver.」も収録。これも『頭文字D」ファンにはテンションが上がるポイントですが、効果音が楽曲を干渉しないのもDolby Atmosならではなのでしょうか?

Honmax:まさにその通りで、ステレオはいわば平面なので大きい音が小さい音をマスキングしてしまうんですね。エンジン音を上げると楽曲が埋もれてしまうし、楽曲を上げるとリアリティに欠けてしまう。Dolby Atmos Mixならどちらも犠牲にすることなく、臨場感を掻き立てることができるんです。

MOTSU:「Gamble Rumble」のDriving ver.については、Honmaxさんに2バージョン作ってもらったんですよ。僕が「Gamble Rumble」のDolby Atmos Mix用にクルマで街をサーキット走行する動画を作っていて。それで、動画が完成した後にDriving ver.が上がってきたんで、当然ながら効果音と動画のクルマの動きは合ってないわけです。

Honmax:EPに収録されているDriving ver.は、実はアーケードゲームの『頭文字D THE ARCADE』のプレイ動画に合わせて作って、わりと満遍なく効果音を入れたんです。カーブを曲がる感じとかタイヤのスキール音とか、ゲームをプレイしている人やクルマを運転している人なら、体感的に楽しんでもらえるかなと。ただ、MOTSUさんの作った動画は「Gamble Rumble」のミュージックビデオとして成立している内容だったので、絵に合わせて効果音を入れたほうが絶対に引き立つと思ったので絵に合わせて音を付け直した次第です。

MOTSU:そんなわけで面倒くさいお願いをしちゃったんですけど、動画と見事にシンクロしたDriving ver.を作ってくださって。そっちはYouTubeにアップしてるんですけど、あの絵と音がビシッと合ったときの気持ちよさ! しかも音像が立体的に広がっていくあの没入感と臨場感……いや、もう鳥肌が立ちましたね。

 

Dolby Atmosの技術を使えば音楽もよりインタラクティブに ゲーム分野で培ってきたCRIだからこそできる音の表現

──ところで「Gamble Rumble」は2004年リリースの音源を使用しているとのこと。新たにレコーディングをしなくても、Dolby Atmos Mixはできるのですか?

Honmax:私はよく料理にたとえるんですが、カレーというDolby Atmos Mixを作りたい。だけどシチューという2ミックスの音源しかないので、まずはシチューからニンジンとかジャガイモを取り出して1回洗う。そしてその食材をもう一度、カレーとして煮込むという作業をやっています。

MOTSU:なるほど、わかりやすい! つまり「Gamble Rumble」を構成する各楽器を抜き出し、それぞれの音素材を3D空間に配置し直すわけですね。

Honmax:そうですね。技術の進化で過去音源でもかなりの精度でできるようになりました。

MOTSU:音楽を「聴く」という上で2ミックスの魅力は変わらないし、これからも存在し続けると思うんです。プラス、Dolby Atmos Mixは音楽を「体感する」という1つの大きなオルタネイトを生み出す可能性がありそうです。通勤電車はダルいけど、耳の中でサーキットが広がってたら最高じゃないですか(笑)。

大場:たしかに今回『Driving Music Selection』のDriving ver.を作ってみて、シチュエーションを混ぜ込むという発想は面白いなと思いましたね。しかも立体音響だからこそ、より現場感とかリアリティが出る。じゃあサーキットじゃなくて、キャンプに向かうシーンだったらどんな効果音を混ぜたらいいかとか、音楽でいろんな風景を描けそうですよね。

MOTSU:この音は高尾山じゃなくて、富士山登っちゃってるぞみたいな(笑)。それで言ったらCRIさんはゲームサウンドの技術もたくさん開発してるそうですけど、ゲームって音も含めてインタラクティブじゃないですか。音楽は再生したら1曲終わるまで同じだけど、Dolby Atmosの技術を使えばもっと音楽もインタラクティブなことができそうだと思うんです。たとえば同じ楽曲でも今日はハチロク(トヨタGR86)が勝ちそうだぞとか、今日はFDが来そうだなとか、ランダマイザーでレース結果が毎回変わったら、それこそ通勤の気分がもっと盛り上がるんじゃないかなと。

大場:レコード会社の人間としてはアーティスト発信でないと音源をいじることは当然ながらできないですし、MOTSUさんのように新しい技術や発想を面白がってくれるのはありがたいですね。

Honmax:最近は仮想空間で遊ぶカルチャーが広がりつつありますが、音だけでバーチャル空間を体感できるのもDolby Atmosの強みだと思うんです。それこそMOTSUさんが何度も言うように通勤時間がカーレースになったり、クラブになったり、ライブ会場になったり、アイデアは無限に広がりますよね。

文/児玉澄子 写真/西田周平


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・m.o.v.e 配信EP『Driving Music Selection』(1月25日発売)

<配信楽曲>
●Gamble Rumble:頭文字D Arcade Stage Ver.2 / Special Stage
●DOGFIGHT:頭文字D ARCADE STAGE Ver.3 / STREET STAGE
●Raise Up:頭文字D ARCADE STAGE 8 ∞

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