ミュージックビデオ+ボーカロイド+ゲーム、”遊べるミュージックビデオ”はどのように制作されたのか。 CRI ADX LE ユーザーインタビュー Vol.9 『Q-SIDE』
「The VOCALOID Collection ~2025 Winter~」※1 に出展されたボーカロイド楽曲『Q-SIDE』※2 が話題を呼んでいます。
この楽曲は、オペレーターの初音ミクの歌と共に、宇宙から飛来した未知のエイリアン『キューサイド』と闘うシューティングゲーム※3 で、
unityroom上でプレイ可能な楽曲、「遊べるミュージックビデオ」として公開されました。
『Q-SIDE』には楽曲と連動した様々な仕掛けが用意されており、これらの演出を実現するために CRI ADX LE が使用されています。
そこで今回は、開発者の「かかこ」氏 ※4 に『Q-SIDE』の制作背景を直接伺いました。
※1: The VOCALOID Collection ~2025 Winter~ https://vocaloid-collection.jp/2025-winter/
※2: Q-SIDE / 初音ミク https://unityroom.com/games/qside
※3: かかこさんのポストより引用 https://x.com/kakothk/status/1893636244849950989
※4: かかこ@kakothk https://x.com/kakothk

かかこ@kakothk
なお、最新のアップデートでスマートフォンでのプレイも可能になりました。
本稿を読み進める前に、『Q-SIDE』を実際にプレイいただくことをお勧めします。
インタビュイー: かかこ
インタビュアー: 株式会社ヘッドハイ 一條貴彰, CRI・ミドルウェア
ライター: 合同会社一筆社 秦 亮彦, 株式会社ヘッドハイ 一條貴彰
編集: CRI・ミドルウェア
目次
1. 『Q-SIDE』と「遊べるミュージックビデオ」
2. CRI ADX LE 導入のきっかけ
3. 自作のスクロール制御システム
4. 移行時に困ったことや起こった問題
5. CRI Atom Craft側でのデータ作成
6. クオンタイズの制御
7. 口のアニメーションの実装
8. 今作の苦労と反響
9. 終わりに
1. 『Q-SIDE』と「遊べるミュージックビデオ」
一條:
今日はよろしくお願いします。
かかこ:
よろしくお願いします。
CRI・ミドルウェア:
よろしくお願いします。
一條:
早速ですが、まずはかかこさんとこれまでの作品について教えてください。
かかこ:
はい、かかこと申します。
現在趣味でゲーム制作をしております。
今作の『Q-SIDE』も含めて、「遊べるミュージックビデオ」をコンセプトに制作した初音ミクのオリジナル楽曲と、その楽曲に連動するゲームを3本公開しております。
下記ページにて、かかこさんの「遊べるミュージックビデオ」が公開中
かかこ – unityroom: https://unityroom.com/users/kakothk
一條:
それでは次に、今回の作品『Q-SIDE』についてご紹介いただけますか?
かかこ:
『Q-SIDE』は初音ミクが歌うオリジナル楽曲であると同時に、楽曲を聴くだけでなく実際にゲームとしても遊ぶことができるインタラクティブミュージックビデオです。
ゲームそのものはシンプルな縦スクロールシューティングゲームとなっていて、オペレーターとして登場する初音ミクがゲーム内のBGMを歌ってくれることが最大の特徴となっています。
また、ゲームのプレイ映像をそのままミュージックビデオとして使用したボーカロイド楽曲を動画サイトに投稿しています。
『Q-SIDE / 初音ミク』 – ニコニコ動画
https://www.nicovideo.jp/watch/sm44691141
『Q-SIDE / 初音ミク』 – YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=iCh7KuXBO78
一條:
『Q-SIDE』は、ボーカロイド関係のコンテストに出展されていますが、こちらはどういったイベントなのでしょうか。
かかこ:
今回出展させていただいた「The VOCALOID Collection ~2025 Winter~」はボーカロイド文化の祭典として開催されているオンライン参加型のイベントです。
「The VOCALOID Collection」は2020年の冬から定期的に開催されていて、今回で9回目の開催となります。
開催期間内には様々なクリエイターから沢山のボーカロイド楽曲が投稿され、ランキングを始めとした様々な企画も実施されています。
私が今まで制作してきた「遊べるミュージックビデオ」は、全てボカコレに参加させていただいた作品となっています。
一條:
ゲーム自体の着想についても伺えればと思います。
『Q-SIDE』は全体で6分ほどとゲームのプレイ時間としてみるとコンパクトにまとまっています。
この点についてはミュージックビデオを意識してまとめられたのでしょうか?
かかこ:
ゲームとしてだけでなく、ミュージックビデオとしても成立するように意識して制作しています。
「遊べるミュージックビデオ」については、2019年10月にリリースされた『Rocket Queen』※という楽曲がアイデアの元となっています。
これは『TEAM SHACHI』という女性アイドルグループと「ロックマン」がコラボした楽曲で、
当時はミュージックビデオ内で使われているロックマンのゲームをWeb上で実際に遊ぶことができたんです。
自分はこれを見てプレイしてミュージックビデオをゲームで作るという事に可能性を感じ、「遊べるミュージックビデオ」を作ろうと思いました。
『Q-SIDE』の一つ前に作った『バック・グラウンド・メモリー』※を遊んでいただくと『Rocket Queen』からの影響がよりわかりやすく感じられると思います。
※ TEAM SHACHI×ロックマン/MEGAMAN「Rocket Queen feat. MCU」MV【Official Music Video Game】https://www.youtube.com/watch?v=Xb5Cnjk78tA
※ バック・グラウンド・メモリー / 初音ミク – unityroom https://unityroom.com/games/bgmemory
バック・グラウンド・メモリー / 初音ミクでゲームを作ってみた – YouTube https://www.youtube.com/watch?v=qq2-PRtQsPk
バック・グラウンド・メモリー / 初音ミクでゲームを作ってみた – ニコニコ動画 https://www.nicovideo.jp/watch/sm42581537
一條:
なるほど、『Rocket Queen』は動画としてアップロードされていますが、当時は遊べたのですね。
かかこ:
そうなんです。当時は遊べました。
自分の「遊べるミュージックビデオ」作品について、革新的と言われることがたまにあるのですが…。
自分としては『Rocket Queen』をはじめとした様々な作品を参考にさせていただいている感覚が強いので、
革新的と言っていただけること自体はとてもありがたいのですが少し恐れ多く感じてしまいますね。
一條:
『Rocket Queen』を着想のベースにしながら横スクロールの作品から始まって、今回はシューティングというわけですね。
『Q-SIDE』について、ゲーム全体の演出として「遊べるミュージックビデオ」としての気持ちよさとか、面白さや印象に残るための工夫はありますか?
かかこ:
色々な工夫はしているのですが、沢山ありすぎてパッとこれというと中々…。
CRI・ミドルウェア:
『Q-SIDE』は細部も含め色々な仕掛けがありますよね。
私がプレイして印象に残ったのは最後のボスのHPバーの増加の音で、あそこが一番気持ちよかったです。
かかこ:
ああ、あそこですか。
あの増加音も元ネタが一応あって、あれは『星のカービィ』を参考にしています。
体力ゲージの効果音がBGMと一帯になって、ボス戦の始まりを盛り上げてくれるんです。
カービィ以外にも、ロックマンでも同じような演出がありますね。

2. CRI ADX LE 導入のきっかけ
一條:
ここからは『Q-SIDE』の実装について訊かせてください。
今回、CRI ADX LEを導入したきっかけはなんでしょうか?
かかこ:
2024年の12月にCRI ADX LEがWebGLに対応したことが導入のきっかけです。
『Q-SIDE』はもともと「じーくどらむす」さん※が公開されている『MusicEngine』※というUnity上で音楽に合わせた演出をし易くするライブラリを使って制作をしていました。
ほぼ完成までできていたんですけど、WebGLでテストする段階で音声周りの直しようのないバグが発生してしまったんです。
それがちょうど去年の12月のことで…。
どうしようかと困っていた時にCRI ADX LEがWebGLに対応したので、本当に運命的なタイミングでした。
※ じーくどらむす/岩本翔 https://x.com/geekdrums
インタラクティブミュージックを専門とするサウンドプログラマー。
ゲーム制作のほか、インタラクティブミュージックに関する記事執筆や講演などを行っている。
※ MusicEngine https://github.com/geekdrums/MusicEngine
Unityの利用時に音楽に合わせた演出を簡単に作るためのオープンソースプロジェクト。
じーくどらむす氏が開発および公開している。
一條:
それはうれしいタイミングですね。
本作品の制作時点で、既にCRI ADX LEはご存じだったのでしょうか?
かかこ:
普段いろいろなゲームを遊んで、ロゴをよく見かけていたので知っていました。
『Q-SIDE』以前にも「遊べるミュージックビデオ」を作る際の選択肢として元々考えていましたが、ゲームであると同時にボーカロイド楽曲でもあることを考えた時に、ゲームまでのアクセスを出来るだけ簡単にしたくて…。
なので、気軽に遊べる形としてWeb上で公開したかったんです。
『Q-SIDE』を作り始めた時もそれまでの作品と同様に、Unityの標準機能をそのまま拡張しているMusicEngineを使って制作していました。
一條:
アクセスをできるだけ簡単にするとなると、Web上での公開は大事ですね。
起きた問題についてもう少し深堀りさせてください。
CRI ADX LEを使用前にWebGLで起きていた「音声周りの直しようのないバグ」とは、どういったものだったのでしょうか?
かかこ:
UnityのAudioSettings.dspTimeによって得られる値がUnity Editor上とWeb上とで挙動が異なることで起きた問題でした。
『Q-SIDE』では本作がゲームでもある事を活かして、ボーカロイド楽曲でありながらも楽曲が展開に合わせて変化していくインタラクティブミュージック※を採用しています。
例えば、「タイトル画面から出撃するとき」と「楽曲のループ」などで、横の遷移※を行っています。

出撃を選択するまではタイトル画面で楽曲がループ

出撃を選択すると楽曲の展開が変化(横の遷移)
※ インタラクティブミュージック(Interactive Music): 入力や状況の変化に応じて動的に反応/適応し、変化する仕組みを持つ楽曲およびそのシステムの総称。
なお、より限定した用語として Interactive Music, Adaptive Music, Generative Music などもある。
本稿ではこれを広義に解釈し、インタラクティブミュージックとして記載します。
※ 横の遷移(Horizontal Resequencing): インタラクティブミュージックにおける技法として分類されている通称の一つ。
複数のセクションから構成された楽曲の再生時に、状況に応じてセクションを動的に切り替える手法。
セクションを切り替える境界として拍や小節などを考慮することで、楽曲としての自然さを保持しながら別の展開へ遷移する特徴がある。
会話や戦闘の進行などの、一定の繰り返しが想定される状況の進行に応じて楽曲を変化させる際によく用いられる。
かかこ:
当初、この演出はAudioSettings.dspTimeを使用しながら音声の再生を予約することで実現していました。
ただ、この予約の計算結果がUnity Editor上とWeb上とで違う結果になるので困っていました。
色々検証もしたのですが、仕様上の違いから解決は難しく…。
そう悩んでいたところにちょうどよくWebGL対応のCRI ADX LEが公開され、この問題が解決できました。
一條:
なるほど、それはたしかにちょうどよいタイミングでしたね。
そこからCRI ADX LEに移行したと思うのですが、移行して良かった点はありますか?
かかこ:
移行して一番良かったのがGetTimeSyncedWithAudioという精度の高い関数が用意されていた点です。
この結果がUnity Editor上とWeb上とで変わらないので、再生の予約をするための計算結果に違いがないので問題が無事解決できました。
一條:
困っていたところが移行で解決できたと。
3. 自作のスクロール制御システム
かかこ:
さらに、自作のスクロール制御システムにも良い恩恵がありました。

ステージ上に拍や小節数など音楽の再生位置が可視化されている。
https://x.com/kakothk/status/1904095674452607338
一條:
スクロールの制御についてはX上にポストされていたものを以前拝見しました。
これはどういった経緯で開発したシステムなんでしょうか。音楽に合わせてゲーム側のスクロールを制御する構造になるんですか?
かかこ:
スクロール制御のシステムはレベル上に音楽の再生位置を示したタイムラインを表示させているもので、これはリズムゲームの譜面エディタを参考にしています。
今までの「遊べるミュージックビデオ」3作はジャンルは全く別々のゲームなんですけど、
音楽の演出に合わせたレベルデザインを直感的に行えるので、このスクロール制御システムは共通したものを使い回しています。
自分がこれまで作ってきた「遊べるミュージックビデオ」では、カメラの強制スクロール位置にオーディオの再生位置を利用してスクロールと音楽が完全に一致するようにしていました。
CRI・ミドルウェア:
このスクロール制御システム、素晴らしい仕組みですね。
かかこ:
ただ、これまでのスクロール制御では若干カクついている問題があって…。
というのも、AudioSettings.dspTimeを使用してスクロール制御を実装していたのですが、この値は他のオブジェクトよりも更新頻度が低かったんです。
更新頻度が他よりも低いので、カメラのスクロールが少しカクつく原因になっていました。
仕方がないものとして元々妥協していた部分だったんですが、移行してGetTimeSyncedWithAudioの利用に変更したところこれも改善できました。
以前よりもスムーズにスクロールするようになったおかげでゲーム全体の見栄えが格段に良くなったし、遊び易くもなりました。
CRI・ミドルウェア:
WebGLでの問題解決を期待して移行したら元々妥協していたスクロールのカクつきも解決できたと。
一條:
それはとても嬉しい恩恵ですね。
4. 移行時に困ったことや起こった問題
一條:
移行したことで逆に手間がかかってしまった点はありますか?
かかこ:
手間についてですが、正直そこまで面倒に感じることはありませんでした。
強いて言うならば、元の楽曲データを修正する度にCRI Atom Craftでの作業を挟んでキューシートをビルドし直さなければならないのは少し面倒かもしれません。
ただ、それは仕方がない部分だとも思います。
かかこ:
あと、ループマーカーの設定に少しだけ戸惑いました。
使い始めの時はこの仕様がわからなかったので、上手いことループさせられず…。
今はその部分も理解して使えているんですけど。

一條:
なるほど、わかりました。
それほど手間がなかったのはうれしいですね。
CRI・ミドルウェア:
ループマーカーの設定は一般的なDAWと見かけだけが似ているので混乱させてしまっているかと。
シーケンスをループさせるだけなので波形のNoteOnとしてのみ機能していると言いますか…。
また、データ更新の手間を減らす方法については考えます。
かかこ:
あとはそうですね、CRIさんのDiscordサーバーの方でお問い合わせさせていただいた件ですかね。
開発中、他のプラットフォームでは問題なく音声が再生されるのに、unityroomでのみ音声が再生されないという問題がありました。
CRI・ミドルウェア:
ストリーミングアセットが使えなかった件ですね。
かかこ:
そうです。unityroom上だとストリーミングアセットが使えなくて、Discord上で問い合わせをしてサポートいただき解決出来ました。
そこが一番最初に手こずったところでしたね。
一條:
それは全部メモリ再生したのでしょうか、それともストリーミングで鳴らしているのでしょうか。
かかこ:
もう思い切って全部メモリ再生でやってます。
CRI・ミドルウェア:
unityroomでは基本的に指定されたファイル以外をアップロードすることができない仕様になっていまして。
そのため、unityroomではメモリ再生しかできないんですよね。
そういった事情で、それ以外のWeb上でもサービスごとにストリーミング再生ができないなどはあるかもしれません。
ちなみに今回の作品を例えばitch.ioのなどにも公開する予定はありますか?
かかこ:
そうですね。まだ作業は進められてないですけど、一応考えてはいます。
unityroomとアップロードの手順などそこまで変わりはしないんですけども…。
今は作るのが凄く大変だった作品が完成し、いったん一区切りついたということで、少し休憩中です。
あと、今は『Q-SIDE』に関してはスマホ操作に対応させたアップデートを優先しようとしています。※
※ なんと既にタップ操作に対応。さらに、itch.ioでも『Q-SIDE』をプレイ可能。
※ Q-SIDE / Hatsune Miku by kakako https://kakothk.itch.io/q-side

itch.io : https://kakothk.itch.io/q-side
5. CRI Atom Craft側でのデータ作成
CRI・ミドルウェア:
今回のデータ作成についての詳細を訊かせてください。
『Q-SIDE』の制作内で、CRI Atom Craftならではの設定などは使用されましたか?
それとも詳細な実装はCRIWARE Unity プラグインのAPIで行ったのでしょうか?
かかこ:
API側で操作している部分が多く、基本的にはCRI Atom Craft側で特別なことはあまりしていないです。
機能を使用した例ですと、セレクターを使用しました。
楽曲内に4回転調があり、効果音もキーに沿ったものを再生させたかったため、キーに合わせた再生をセレクターで実装しました。
ほぼ全ての効果音を楽曲のキーに合わせて作っていて、その再生を切り替えています。

かかこ:
そのほかには、インタラクティブミュージックのためにブロック機能を使用しました。
先ほど話した「タイトル画面から出撃するとき」や「中ボス戦」などのループで使用しています。
CRI・ミドルウェア:
出撃するときのループで遷移待ちのブロックが1小節分挟まれていて…。
プレイしながら、これは良い演出だなあとワクワクしました。
かかこ:
出撃のインタラクティブミュージックは、メニュー画面から「出撃」を選んだ際、発射シーケンスに移行すると同時にシームレスに歌が始まるように仕掛けています。
まずドラムパートのみを鳴らしているトラックにクロスフェードさせ、しばらく経ってから遷移時にリバースシンバルを鳴らす。
そのあとに歌のブロックへ遷移するといった手順になっています。
複数の処理が絡む場所なので、一つにまとめるために専用のアクションキューを用意しています。
CRI・ミドルウェア:
なるほど、確かにその実装にすると遷移時に様々な工夫ができますね。
一つにまとまるので理想的な使い方だと思います。

ブロックを使用して全体が構成されており、
ブロック遷移は専用のアクションキューで制御
6. クオンタイズの制御
一條:
あとは、ショットの音やショットの反射音などのタイミングも楽曲に合っていますが、
あの部分の作りはどうなっているのでしょうか?
かかこ:
楽曲のテンポに同期して効果音を再生するクオンタイズ部分はUnity側で制御しています。
CRI ADX LE 側にもビート同期が機能として備わっており、最初はそれを想定して組んでいました。
ただ、いくつかの理由からビート同期を使用せずに自前で制御するようにしました。
まず、ビート同期を使用するためにはアクションキューを別に作らなければいけないので、キューが余分に増えてしまい管理が面倒になってしまいました。
もうひとつは精度の問題で、プレイヤーのショットなど高い頻度で鳴る効果音に関しては、ADX側のビート同期と自前のスクリプトで再生した結果を比較した際に自前でクオンタイズを制御した方がより適切なタイミングで再生できていました。
以前、今作のクオンタイズのことをX上で少しだけ紹介したのですが※、
クオンタイズの範囲を設定して揺らぎを生み出していたり、
16分音符刻みで鳴る効果音でも初撃だけ8分音符に合わせて再生したり…。
こういったクオンタイズに関する工夫は自前で組んだほうがやりやすかったです。
そういったこともあってCRI Atom Craftでの実装では効果音は鳴らしてるだけですね。



https://x.com/kakothk/status/1896031246800822779
一條:
なるほど、すごい実装ですね。
ショットし続けている間は同期された音が鳴り続けるのがかっこよかったです。
同時に、そこがゲームとして遊ぶ場合の爽快感にもつながっていると思いました。
CRI・ミドルウェア:
ちなみにクオンタイズの部分で、Unity Editor上やWeb上で遅延など気になった点がありますか?
他にこの環境で音途切れがあるとか…。
かかこ:
いえ、特になかったです。
クオンタイズはSetPreDelayTimeを使って制御しているんですけど、目立った遅延は感じませんでした。
一応、環境によっては処理落ちが発生してしまい音声が途切れ途切れになるという報告はいただいていますが、
それはゲーム側の最適化不足の問題だと思うので特に問題はないように思います。
CRI・ミドルウェア:
おお、よかったです。
SetPreDelayTimeは今回公開したWeb版のCRI ADXから使えるようになった機能の一つです。
WebAudioではサンプルレベルでの制御に難があるのですが、CRI ADXではそれが出来るのでWeb版を公開できて良かったなと思いますね。
7. 口のアニメーションの実装
一條:
次に、セリフ周りの話について訊かせてください。
初音ミクが歌ったり説明したりするとき、表情の変化や口の動きがありました。
これはタイミングを決め打ちして実装しているのでしょうか?
それとも、何かリアルタイムな制御を実装しているのでしょうか?
かかこ:
初音ミクが歌っている部分に関しては、楽曲のMIDIデータをタイミングとして参照するようにしています。
説明しているセリフの部分に関しては、CRI ADX LEのAPIで用意されているRMS値を参照してミクが喋っている間だけ、口をランダムにアニメーションさせるようにしています。
CRI・ミドルウェア:
これは、Piapro Studioなどで使用したMIDIデータをそのまま利用しているなどでしょうか?
かかこ:
はい、その通りです。
Piapro Studioからミクの歌のMIDIデータをエクスポートして、それをタイミング同期用に少しだけ編集したものを利用しています。



CRI・ミドルウェア:
このMIDIデータ自体、ゲームでそのまま利用されているのでしょうか?
それともMIDIを元に別途制御用データを作成するなどで利用しているのでしょうか。
かかこ:
MIDI自体をそのままゲームのアセットとして使用していて、Unity側で読み込むようにしてます。
CRI・ミドルウェア:
なるほど…。MIDIの利用について、もう少し訊かせてください。
CRI ADXやCRI Atom Craft自体でMIDIが使えないことで不便だったことなどはありますか?
かかこ:
いえ、今作では特に問題なかったです。
強いていうのであれば、コードの情報を含んだMIDIデータをセレクターなどで利用できるといいかもしれません。
というのも、次回作以降ではキー単位ではなくコード単位で鳴らす効果音を変えたいと考えていまして。
この仕組みを実装するときにコードの情報を含んだMIDIデータを用意することになるだろうと想定しています。
そのMIDIをセレクターみたいなに利用できるとこういった実装も楽にできるのかなと思いました。
CRI・ミドルウェア:
なるほど、ありがとうございます。
少し前後してしまうのですが、先ほどミクが喋っている間だけ口をアニメーションさせるためにRMS値を参照していると伺いました。
これはミキサーの中にバスを一つ用意する形で実装されているのでしょうか?
かかこ:
はい、その通りです。
ミクのセリフを再生するためのバスを一つ用意して、そのバスのRMS値をアニメーションの再生に使用してます。
CRI・ミドルウェア:
なるほど、おもしろい実装と演出ですね。
一條:
ではセリフ差し替えしても動くのですね。
口の動き以外にも、右上のUも音と連動して動いていました。
こちらもアナライザーで取れる数値で作っているのでしょうか?
かかこ:
はい、そのように実装しています。
また、正方形のコンポーネントについては、自前で用意している拍の管理システムを使っています。
過去作だとMusicEngine側で設定していた名残もあり、
今作ではMusicEngineをベースに自作したライブラリを使用して同じような仕組みを実装しています。
CRI・ミドルウェア:
音声の再生位置に対してBPMやサンプリングレートなどから拍や小節を算出する仕組みを作られたのですか?
かかこ:
はい、そうです。
一條:
なるほど、それは手が込んでいますね。
そういった自作のライブラリとして作ったけど、ADXの中に統合してくれると便利みたいな要望はありますか?
例えばクオンタイズの幅とか。
かかこ:
確かに今回自分で用意したクオンタイズなどは標準で用意されていたりありがたい方がいるかもしれないですね。
自分としてはもう自前で組んでしまっているのでそこまで問題ではないですが。
CRI・ミドルウェア:
クオンタイズなどはもう少し気軽に出来たほうが良いかもしれないですね。
ビート同期の実装などを鑑みながら検討してみます。
8. 今作の苦労と反響
一條:
あとは、サウンドの実装以外に開発全般で大変だったところはありますか。
かかこ:
そうですね、やっぱり楽曲制作が一番大変でした。
CRI・ミドルウェア:
そうですよねえ。
かかこ:
今作はゲーム全体が楽曲とシンクロするように意識して作っていて、
例えば歌詞の中に「ワイドショットで~」と出てくる所があるのですが、そこでちょうどプレイヤーのショットがワイドショットに変わったりみたいな演出をたくさん散りばめています。

ワイドショットの歌詞と同じくワイドショットのアイテムがドロップ
かかこ:
そのため、曲の中でちょっとここは違うなっていう部分を修正しようと思ったらゲームデザイン全体を巻き込んで修正が必要になることが多くて本当に大変でした。
一條:
楽曲を直そうとするとゲームにも影響が出るのですね。
ちなみにワイドショットの部分は、どういった実装なんでしょうか。
かかこ:
あの部分はワイドショットを持った敵がタイミングよく出現するだけですね。
むしろそこはプレイヤーを信頼してなにもしていません。
CRI・ミドルウェア:
おおー。
9. おわりに
一條:
さて、今回の作品について結構伺ったので、今後の構想みたいなところを聞きたいです。
かかこさんとしては今後もこういったその音楽とゲームプレイの融合みたいな作品を作っていくつもりでしょうか?
かかこ:
はい。
まだ全然形にはなっていないですけど、次回作についても次はこういうものを作ろうかなというアイデア自体はありますね。
一條:
それは楽しみです。
普通のゲーマーだと多分最初は気がつかずただ気持ちがいいと思うんですけど、
歌詞が出てたりして気づくんじゃないかと思っていて、印象に残ってます。
CRI・ミドルウェア:
今回の作品を通じて、ゲームプレイヤーとボカロ楽曲のリスナーがunityroomで交わったと思うんですね。
さらに、ワイドショットと聞こえたらワイドショットになったり、効果音がクオンタイズされていたり、
そういった仕掛けによって、楽曲でもありゲームでもあることをわかりやすく認識できるようになっている。
かかこ:
確かにその通りですね。
ワイドショットの演出はたくさんの人が言及してくれていました。
クオンタイズしている効果音とかはマニア寄りの人がよく反応してくれていたように思います。
CRI・ミドルウェア:
そのあたりは自然だからこそ気づかないんですよね。でも気持ちよさはきっと感じていて。
一條:
そうそう、ゲームサウンドの鉄則ですね。
よくできたゲームサウンドって自然すぎて気がつかないですからね。
ぴったりはまると気づかなくなりますよね。
一條:
さて、本日は面白い話をたくさん聞かせていただきました。
最後に、かかこさんの今後の活動などについて教えていただけますか?
かかこ:
はい、今後も自分は様々なジャンルの「遊べるミュージックビデオ」を作りたいと考えています。
これまで「リズムゲーム」「アクションゲーム」「シューティングゲーム」と来たので、次回作は「落ちものパズルゲーム」を作りたいと考えています。
その際にはまたCRI ADX LEを使わせていただこうと思っています。
CRI・ミドルウェア:
とてもうれしいです。次回作も楽しみにしています。
本日は長時間ありがとうございました。
一條:
ありがとうございました。
かかこ:
こちらこそ、ありがとうございました。

以上、『Q-SIDE』のインタビューでした。
かかこさんあらためてありがとうございました。
次回のインタビューは、同じく「The VOCALOID Collection ~2025 Winter~」に出展されたkuma氏によるボーカロイド楽曲『リリカルアナグラム』です。
今回に引き続き「遊べるミュージックビデオ」の内容となります。ご期待ください。
本記事内で使用した商標に関する権利表記
「初音ミク」および「Piapro Studio」は、クリプトン・フューチャー・メディア株式会社の商標です。
「VOCALOID(ボーカロイド)」および「ボカロ」はヤマハ株式会社の商標です。
「Unity」は、Unity Technologiesおよびその関係会社の商標です。
「星のカービィ」は、任天堂株式会社及び株式会社ハル研究所の商標です。
「ロックマン」は、株式会社カプコンの商標です。