開発現場の声 – PS4 / PS3『ペルソナ5』サウンドメイキング – アトラス –

非常に多くのユーザーに愛されているシリーズの最新作「ペルソナ5」!!
そのカッコイイ世界観に欠かせない『サウンド』は一体どのように作られているのでしょうか。

音楽だけではなく “効果音の作り方” や”ゲームならではの鳴らし方” にも注目したちょっと珍しいインタビュー。これを読めば、ペルソナの世界がもっと好きになれるかも!?



アトラス5 結成!?

ーー最初に自己紹介をお願いいたします。

土屋氏:土屋憲一と言います。平成7年にアトラスに入社して、『女神異聞録ペルソナ』でデビュー、『ペルソナ5』までずっとサウンドを担当しています。昔は曲も作ったりしましたが、『DIGITAL DEVIL SAGA アバタール・チューナー』あたりで主に効果音を担当するようになりました。 サウンドディレクターという肩書きはついてはいますが、ゲーム本編のサウンドを作る仕事だけでなくローカライズのサポートやプロモーション映像のサウンド制作など宣伝のお手伝いであったり、幅広くサウンドに関する雑用をやっている感じです。

喜多條氏:喜多條敦志です。2006年に入社してもう10年になりますね。 僕も土屋さんと同じような何でも屋さんなんですけれども、作品によって、目黒さん(アトラス 目黒将司さん)や、土屋さんのサポートに回ったり、専属で担当することもあります。

ーーサントラでお名前を見かける事もあるんですけれども、アレンジもやられたり?

土屋氏:特典サントラのような記念イベントでは過去の作品からアレンジ版を作ったりしますね。今回「ファイブ」という事と、サウンドチームも全部で5人居るので豪華版の『ペルソナ20thアニバーサリー・オールタイムベストアルバム』では全員が1ナンバリング作品から1曲、楽曲をアレンジする、なんて企画も面白いんじゃないか、と。

喜多條氏:それがアトラス5と名付けられたりもしましたね(笑)

ーー戦隊モノっぽいですね(笑)

土屋氏:ピンクは誰なんだ? という話で揉めてみたり(笑)

ーー(サウンドに)女性がいらっしゃいませんしね…

喜多條氏:…土屋さんじゃないですかね? ピンク。

ーーあー、ちょっとピンクっぽいですね。

土屋氏:ピンクとイエローでちょっと悩みますね(笑)


ペルソナ”らしい”サウンドとは?

土屋氏:前作の『ペルソナ4』は仲の良い高校生たちが良い雰囲気で協力して悪党を退治する話だったんですけど、5は怪盗団というキーワードがあって、単なる仲良しグループではないワルな部分も出していこうという事で…実は、開発が始まった当初はキャラ設定がもっとワルかったんですよ。利害関係の一致でゆるく繋がっているだけみたいな。仲の良い、という雰囲気ではないシナリオだったんです。製作過程でより魅力のある、共感できるキャラクター像を目指して洗練されていくんですけど。

直近の3、4よりも年齢層の高い、アダルト向けな、ピカレスク的な事をやっていこう、というコンセプトがあって…なので、3と4では決定音やキャンセル音、いわゆる「システム系SE」は共通にしていたんですけど、5では敢えて変えてみました。

ーー3と4で同じだったんですね。

土屋氏:あ、残響がちょっと深いです。4の方が。

一同:笑

土屋氏:そんなわけで、3や4とは違う音をゼロから組み直しました…けれども、シリーズ通して馴染みのある音が入っていた方が分かり易かったり安心感があり、コープ(以前のコミュ)がレベルアップするところなどは過去作と同じ音が鳴っていますね。
この辺は橋野ディレクターがプレイの手触りをとても気にしていた部分でもあり、周囲の意見も取り入れつつ固めていきました。ADX2は音の差し替えも楽なので。

ーーコンセプトが変わる事によってBGMの方向性も変わりましたか?

喜多條氏:目黒さんに聞いた話だと、コープのランクがアップする曲は、橋野ディレクターから勇ましい感じにしてほしいとリクエストがあったらしく、シリーズの雰囲気を踏襲しつつ、勇ましいアレンジになっていますね。

土屋氏:言ってしまえば、ストーリーとグラフィックを見れば、付けるべきサウンドは自然に固まっていくので、お話を読んで、絵を見て、「あぁ、今回こうか。なるほど。」って思った時点で、頭の中で音が鳴っているんですね。
なのでそれを形にしたものが、みなさんが聞いている音になりますね。自分の脳内で鳴っている音を上手く実体化できなくて苦労する事はありますが。

ーーさすが、もう阿吽の呼吸みたいなものがあるのかもしれませんね。
ところで、別のインタビュー(2083フリーペーパーVol.12)で目黒さんが「ブラスを敢えて減らした」という記事を拝見しましたが…

土屋氏:あ、そうですね。金管の音って、以前はかなりフィーチャーされていて、金管を入れると「あ、いつものアレだ」という一種の安定感が生まれてしまうので、今回は変えてみたと言っていましたね。

喜多條氏:あと、やっぱりヒーローっぽい雰囲気が出ちゃうんですよね。ピカレスク感が薄くなってしまうというか。


どんな体制だったか

ーーサウンド5人ずっと掛かりっきりだったんですか?

土屋氏:サウンドチームって、ゲーム開発の初期段階には特にやる事が無いんですよね。先ほども話が出たように、ストーリーとグラフィックが固まってこないと。実際に忙しくなってくるのは、ある程度ゲームが遊べる状態になってからになります。

本作は開発期間がかなり長かったので、最初の数年は「あ、今こんな事になってるんだ…前に見た時と随分変わってるな…」というのを横目に若干ハラハラしつつ、別のチームで他の仕事をバリバリやってる感じでした。

喜多條氏:確か、目黒さんからオープニングテーマのデモが上がったのが2013年で、サウンドが関わり始めたのがその頃からでしたね。

ーー武道館でやっていた、『PERSONA SUPER LIVE 2015 ~in 日本武道館 -NIGHT OF THE PHANTOM-』のステージで発表されたのが初…ですかね?

土屋氏:ライブの最後で出たやつですよね。あの効果音もですが、ステージ上の段取りも自分がお手伝いさせて頂きました。
ライトが消えて、椅子がでてきて、ここで銃を撃つ音、声優さんの声が入って…お客様の反応を見て拍手が収まったら次の声が…みたいな。

ーーそういうのも担当されていたんですね。
それにしても1つの作品で数年がかりって長いですよね?

喜多條氏:長かったですね…。

土屋氏:しみじみと長かったですね…会社的にも山あり谷あり…。まぁ、でっかい作品は大体長いですね。弊社のサウンドスタッフは色々な作品を掛け持ちで担当する事が多いので、1つの作品に最初から最後までべったり関わっている事はあまりなくて、本格的に作業に入ったのは中盤以降でしたが。

当時は『ペルソナ4 ダンシング・オールナイト(以下、P4D)』を小塚くん(アトラス 小塚良太さん)が主に担当していて、『ペルソナQ シャドウ オブ ザ ラビリンス』を小西さん(アトラス 小西利樹さん)と喜多條くん中心でやっていました。自分はあのころ何をやっていたっけ…

喜多條氏:『真・女神転生IV』じゃないですか?

土屋氏:あ、そうだった。
自分は過去の作品にあまり執着しないので、過去の事はどんどん忘れる主義です。嘘です。常に今が忙しくて覚えていないというか物忘れが激しくなるお年頃というか。


効果音制作のやりがい、こだわり

ーー効果音制作についてのこだわりはどんなものがありますか?

土屋氏:音楽って作曲家の作風が分かりますけど、実は効果音にもちゃんと作り手の好みがにじみ出てくるもので、誰が作った音なのか分かったりします。
「ガラスが割れる」みたいな見た目通りのリアルな音だとあんまり差は出ないんですが、魔法とかシステムSEといった実在しない創作音になると途端に個性が出ます。

喜多條氏:今回、僕の担当範囲はフィールドや、イベントのキャラクターの動きなど、いわゆるフォーリーが多かったので、その辺りはあまり考えずに見た目通りに作っています。UIや魔法といった個性的な音は、土屋さんがやっていますね。

土屋氏:効果音作りのモチベーションとして、自分の場合は「物語や映像を見て、自分がワクワクする」という気持ちがすべてですね。もちろんドラマCDのような、そもそも絵が無くて音だけで表現する作品もそれはそれでやりがいが凄くあって、想像力の世界ってすごいなと思うんですけど、我々が作っているゲームの中で言うとやっぱり「お話がワクワクする、絵がカッコイイ」から、自分好みの音を付けたくなる、自分がプレイしてみたくなる。それが全てですね。
幸いアトラスの作品って、スタッフである自分から見ても毎回毎回「イイネ!」と思える新たな発見があるというか、発売されたら買いたい、やってみたいと思えるゲームなので、こちらも頑張っちゃうぞ、という気分になりますね。まあ、完成する頃にはイヤというほどプレイげふんげふん

効果音を作る具体的な方法としては、大きく分けて
 ・マイクで録音する
 ・シンセサイザーで作る
 ・市販の効果音ライブラリを買ってくる

…というルートがあるんですけれど、録音についてはリアルにそのままの音をただ録ってくるだけだと、あんまり格好良くならないんですよね。
刑事ドラマの銃の音も、本物はあんな「ズギューン!」なんて音しない…あ、どうでもいいですが最近のTVって銃を撃ちまくる刑事ものやチャンバラ時代劇が減っちゃって、この例え話って伝わりますかね…? ともあれ、あの辺の誇張具合、誤魔化し具合を工夫するのが楽しいですね。

土屋氏:市販の効果音ライブラリはそのまま使うのではなく、場面に合わせて細かくエディットしていくのが楽しいですね。そのまんま使うと同業者にバレてちょっと恥ずかしい、みたいな空気もあったりして。ただ、主に海外で売られているものに頼るしかない現状で、やはり日本で生まれ育った耳にはちょっと違和感があるというか全体的にリアル路線なんですよ。つくづくジャパニメーションの効果音って独自の進化を遂げた素晴らしい世界観だな~と痛感します。

シンセサイザーの音作りはもう、使いこなしが全てというか。ここにもやはり作り手の好みや手癖が反映されるもので、「俺はこのツマミをグリグリするのが好きなんじゃ~!」みたいな個性が出てきます。

例えば小西さんはギターが得意なので、エレキギターのエフェクターの知識が豊富で使い方が上手いんですよ。「なんだかいい感じの歪んだ音をしてるけど何使ってるの?」と聞いたらギターのエフェクターを使っていたり。得意技は活きますね。


作中に登場するさまざまな映画の音について

土屋氏:あの部分はシナリオライター陣が台本を作って声の収録までやってくれていて、我々はそれを聞いてまるでドラマCDを作るように「たぶんこういう内容なんでしょ?」という効果音をこちらで…あれ小塚くんだよね?

喜多條氏:そうですね。そして字幕を無しにしてくれというのはこちらから提案していました。また、映画やDVD中の音楽は弊社の作品…『P4D』や『キャサリン』、『HOSPITAL. 6人の医師』などの曲も使われています。

ーーその辺を探してみるのも面白そうですね。

喜多條氏:『ペルソナ2』の「ラーメンしらいし」や「最終ボス戦闘」なども見つかります(笑)他に、アニメシーンだけで使われた曲なども使っていましたね。小塚くんの選曲も絶妙で、映画やDVDイベントが、より楽しめるものになっていると思います。


ガヤの音について

ーー朝礼のシーンや街中など、ガヤがすごく豊富なのかなと思ったのですが、何か秘密はありますか?

土屋氏:そうですね。あれはかなり頑張ってとにかく物量を録って…それこそADX2の機能を活かして作ったところですね。喜多條くんからランダム再生を使ったらどうか、という提案をしてもらったんです。

僕はゲーム機の性能が悪くて無茶ができない頃からの人間で考え方が古いもんですから、プログラマーさんにある程度のランダム再生処理を組み込んでもらおうかな、と思っていたんですけど…ADX2を使えば立体的なパン(左右位置)のランダムもできる、再生するボイスもランダムにできる、出現頻度やタイミングもサウンドクリエイター側で自由に制御できる。

例えば6月は梅雨だから「天気悪いねー」みたいな事を入れたり、後半ちょっと盛り上がってきたら怪盗団の話題が増えていくとか。そういう、ガヤ(群衆のざわめきボイス)の詰め込み方でADX2の機能をかなり利用させていただきました。

この辺をプログラマーさんとプランナーさんで頑張ってやろうと思うと、「何月〜何月は100番〜200番をランダムで使う」みたいな制御テーブルを書いてやらなきゃいけなくなるんですよ。

それが、プログラマーさんは”ガヤの音”というリクエストさえすれば、状況に合わせたガヤが鳴る、という形になりましたね。

土屋氏:ただ…あれはレコーディングが地獄でしたね…
特に盛り上がりもない日常の雑談をひたすら大量に録る、という作業で。声優さんに対して「もっと喋りの素人くさい感じで」という指示は初めて聞きました。

ーーあれ何種類くらいあるんですか…めちゃめちゃありますよね?

喜多條氏:録った音声ファイル数で見ると3000ファイルはあったと思います。そのうち1000ファイルくらいが1つのキューシート(ADX2の音を扱うリスト)の中に入っています。ランダムも三重、四重で使ってますね。

土屋氏:フィールドごとに読み込むキューシートを変えています。秋葉原ではマニアックな話題が増えるとか、駅前の繁華街には学生さんが多いとか、そういう個性を考えながら詰めましたね。「夜の繁華街に合う酔っ払いボイスを収録してない…」みたいな抜けに後から気付いて慌てたり…。


さらに細かいガヤの話

喜多條氏:フィールド、季節、天候、時間帯があって、『春・夏・秋・冬』『晴れ、雨、花粉、豪雨、ヒートアイランド』『朝、夕方、夜』で、条件に合う音声を鳴らし分けてあります。 フィールドはキューシートで分かれていますが、『春の午前中は0番』『夏の午前中は1番』といったように季節と時間帯は、プログラマーさんにキューIDを鳴らし分けてもらっています。
天候に関してはスイッチという機能で制御しています。ただ、普通に音声を詰めてしまうと容量が非常に大きくなってしまったので…そこはキューリンクの機能を使い、共通の条件下で流用できるようキューリンク用に別のキューIDを振り分け、各条件の音声は、そのキューリンクを組み合わせて、容量を抑えつつバリエーションを持たせるようにしました。

その中は、さらに個別に『学生、青年、中年、お年寄り』と年代毎に収録していて、あるフィールドでは若い世代が多めとか(笑)フィールドで鳴る音声を調節しています。

ーーすごいですね…

土屋氏:こうなるとデバッグも大変になってしまって、ランダム指定したボイスが本当にちゃんと全て再生されるかどうか、状況に合わない不自然なボイスが無いかどうか、もはや確認のしようがないんですけれども、ADX2だと少なくともマテリアルに変なものが混ざっていなければ問題にはならないはずなので、そこはありがたかったですね。

喜多條氏:これをプログラムでやろうとしたら、不可能に近かったと思います。
それがサウンドのツールだけでできて、プログラマーさんはIDを呼んで、天気のスイッチの制御をするだけだったので、ADX2の恩恵はとても大きかったですね。

ーー最近のツールではプロファイラーという機能が強化されていて、どの音が再生されたかという情報を細かく記録する事ができるようになっています。今回みたいなケースなら、しばらく鳴らし続けた記録を取って、どの波形が鳴ったか調べる事ができるので次回はぜひお試しください。

ガヤの中でも、ちらほらと目立つセリフが絶妙なバランスで入っている気がするのですが、あの辺りはどうされましたか?

土屋氏:あれはデバッガーさんの意見をかなり取り入れて音量を調整しましたね。
調整前の、取り敢えずデータを入れてボイスが鳴るようになった段階では全てのキャラが全力で喋っていて、街を歩くと周囲の雑談がメチャメチャ聞こえてくるという状態でした。

喜多條氏:あとは距離によって声が小さくなる調整なんかも。

土屋氏:いわゆる「キャラが立ってる」声と、ただ周りがガヤガヤしている音と2種類あるんですね。キャラを立たせたい声は距離に合わせて音量が変わります。

喜多條氏:ガヤガヤしている音は、ゲームをプレイしているユーザーさんの周囲から聞こえるよう、サラウンドの再生位置をランダムにしていまして、どのくらいの頻度で鳴らすかはプログラムで管理してもらいました。こちらの音量はかなり控えめに設定していますね。
ちなみに、こう言ったガヤ系の音声は全て存在感を薄くするために、あえてマイクから距離をとって収録してもらっています。

ーー想像以上に凝った事をされていて驚きました。ツールがお役に立てて良かったです!


始発電車の音を録りに行く

ーー他にこだわりがありそうな音として…例えば電車の音とか。

土屋氏:電車の音は録りに行きましたねー…。都会はとにかく狙った音だけを綺麗に録るのが困難で様々な雑音が入っちゃうので、毎朝始発電車の音を録りに行ったんですけど、なかなか無人の状態になってくれなくて。「なんでこんな時間に酔っぱらって騒いでるのよ…」とか「遥か彼方からハイヒールのお姉さんが近づいてきちゃうぅぅ…」とか思いつつ、とにかく大量に収録しました。

地下鉄の音は、本当に地下の駅構内で録ると響きが強すぎたので、西武池袋線の地下鉄から地上に出てくる練馬のあたりで反響が少ない音を拾って、それをホールの響きを再現するIRリバーブというエフェクターで地下鉄っぽくしました。その方が、音にちゃんと芯が残りつつ残響も深く、結果が良かったです。

ーータイトル画面とかで「ッファーン」って鳴ってるのも西武池袋線なんですか?

土屋氏:あれはですね…特急レッドアロー号でしたね。

一同:笑

土屋氏:たぶんなんですけど…あの警笛は自分が鳴らされた音なんですよ。

ーーそうなんですか!?

土屋氏:もちろん運行を妨害するような行為はしていないつもりですが、沿線の金網に張り付いて電車を眺めていたら丁度良いタイミングで「ッファーン」って鳴らされて。「あれ、もしかして自分が怒られたやつ!?」って思ったんですけど、取れ高が良かったので採用させて頂きました。

一同:笑


vs セミ

ーーフィールドレコーディング(屋外での録音)について、苦労された点とかありましたらぜひ。

土屋氏:P5の2014年9月のソニーカンファレンスで発表して頂いたPVの音を作った時、『夏に』踏切の音を録る羽目になって。で、いざ現場に行ってみて、踏切の近くでガンガン鳴いているセミを…(腕を振りながら)「ッア゛ア゛ァ゛ァァーッ!」って追っ払って

ーー!!

土屋氏:ようやくセミを追い払って録ろうと思ったら、奴ら踏切の向こう側の木に止まりやがるんですよ。なんで、踏切が開いたら向こう側に渡ってまた「ンンンッア゛ア゛ァ゛ァァーッ!」って。セミが居なくなってから録る、っていう…。通りすがりの女子高生の目が超痛いの。
あと、朝早く行けば平気だろうと思っていたら、ひぐらしが意外と朝から鳴くんですよね。昆虫の生態にちょっと詳しくなります。

ーーセミは大変ですね…。

土屋氏:他はガヤガヤ音とかもですね、宣伝カーや広告トラックが天敵なんですよ

ーーあぁ、なるほど。

土屋氏:トラックにでっかい看板がついてて、大音量でアゲアゲな歌を流しながら街中を走ってるのがあるじゃないですか。「(自主規制)」とか書いてあるやつ。都内は本当にアレが寄ってくるんですよね…録音してると。
あとは、著作権的にアウトな曲が流れていたり。繁華街を歩くとどこに行ってもエグ○イルで本当に困って…そういうアウトな音が聞こえず、大勢の人が無言でトボトボ歩いてくれる理想的な道を探し出すのにものすごく苦労しました。

ーーこの辺には無さそうですけどね…

土屋氏:結局、マイ・フェイバリット・ガヤガヤスポットを意外にも新宿駅のそばで発見してですね。「ここだぁーー!」って一日ずっとそこで足音を録ってましたね。

喜多條氏:渋谷に環境音を録りに行ったときも随分上の方まで行きましたよね。

土屋氏:行ったねー。道玄坂をひたすら上の方まで登ってみたり。

喜多條氏:そしたら工事してまして…

土屋氏:ヘリコプターも飛んできたりして…なので、比較的田舎の方に行ってあまりゴミゴミしていないところで録ったものを幾つか重ねた方が上手く行ったものも中にはありますね。

マイクで録った音って、意外と空気感まで録れているもので、田舎だとやっぱり自然が豊かな音になっちゃうんですよ。虫の声とか木々のざわめきとか。なのでそこに都会的なガヤの音も混ぜながら…みたいな事をやりましたね。

喜多條氏:ちゃんと、四茶の音は三軒茶屋で録った環境音を使ったりしていますよ。

土屋氏:この辺り(三軒茶屋)は、首都高三号線のビュービューいう音が独特なので、やっぱりそれを混ぜていたりします。

ーーなるほど、そうなんですね!面白いなぁ。


夜になると奇行が始まる

土屋氏:ガヤも沢山録りましたし…人間が身動きする音、モーション効果音もですね。 主人公がこう、カッコよく振り返る音をサウンドブースの中でブンッって。
あの、普段服なんて買わないんですけど…”良い音が出る服”をしま○らで買ってきて

ーーあ、すぐそこの…(笑)

土屋氏:調子に乗って振り回してたら切れて。

一同:笑

土屋氏:切れちゃったから、って今度は破く音を「ン゛ア゛ア゛ァァァッ!」って。

ーー前向きに…(笑)

土屋氏:って事をやりましたね。

ーー土屋さん今日、暴れる系のエピソード多いけど大丈夫ですか(笑)

土屋氏:自分の仕事に誇りを持っている。

ーー意外と音作りって…PCに向かっているか、マイクに向かって変なことやっているかですよね。

土屋氏:そうなんですよね。
みんなが帰ってから深夜の会社で転げ回るとかよくやりますからね。受け身をとったり、誰も居なくなってから机の上に乗って「とうっ!」って着地する音を録るみたいな亊とかやってますね。
回転する椅子から転落して頭と脇腹を強打して「あぁ、これは僕は死ぬかもしれない…」とか思いながら深夜にマジ泣きした日もありましたね。脇腹がひじ掛けに当たって頭から落ちるという。しかも「げふっ」という自分の声が一緒に録れちゃってて、効果音として役にも立たないという。翌日変死体となって発見されなくて良かった。

ーーあれですね、土屋さんのブースの近くにカメラを置いておくと、朝には面白いものが撮れているかもしれない…と。

土屋氏:奇妙な様子がたぶんいっぱい撮れてますね。非常階段のドアをお尻で「ボーン」ってやってみたり、鎖を振り回したり…。

ーー鎖振り回してるとか完全に危ない人じゃないですか。

土屋氏:本作では「束縛」の象徴として鎖がビジュアル的にもイメージ的にも割と重要で、アルセーヌが鎖をまとっていたりするので…あれも、どの金属が一番良い鎖の音が出るか、いろんな物を殴って回る、みたいな事もやってました。

ーーじゃあ土屋さんブースには鎖がいっぱいあるんですね。

土屋氏:小塚くんも同じ事で悩んでいたらしくって、ホームセンターで鎖買ってきて持ってたんですよ。「今晩、鎖貸してくれない?」みたいな会話をしてましたね。バイクの盗難防止用の異常に硬くて重いチェーンがやはり良い音なんですけどお値段(以下、チェーン談義が続く)


インタビューを終えて

いかがでしたでしょうか。『ペルソナ』シリーズの音がどれだけこだわって作られているかが伝わったかと思います。
振り返ってみると土屋さんの奇行が目立つ気がしなくもないですが
CRIとしても、ゲームのより豊かなサウンド演出のために各種ツールの機能をお使いいただけている、というのを改めて感じるインタビューとなりました。今後の作品も楽しみですし、弊社もまたお役に立てればと思います。

ゲームのサウンドに興味を持ってくださる人が増えたらいいな!